プップクプーッ!プップクプーッ!
間抜けな音色に笑いながら布団を抜け出した。
午前7時。
おばさんが吹く起床のラッパに、のそのそとみんなも起き出す。
たっぷりとした朝食を食べる。
コーヒーを煎れてもらう。
ライダー達がバイクにまたがりそれぞれの目的地に散ってゆく。
共に一夜を過ごした旅人たちを見送る。
良い旅を!
さあ、どうしようかな。
空は気持ち良く晴れ渡っている。
小樽の町を廻るのはいつでも良いや。
今日は積丹半島に行こう。
断崖絶壁に沿った細かいワンディングを走る。
荒波に削られた奇妙な岩。
深く澄んだ海の色。
やっとすれ違うトンネルを抜けるたびブルーが広がる。
気に入った場所があるとバイクを止める。
何度も立ち止まり風景を味わう。
うまい焼き魚から肉を剥がすように丁寧に走る。
ちいさな入り江に降りる。
波打ち際には拳くらいの石がゴロゴロしている。
力強い波が引くたびに転がりぶつかり合う。
目を閉じ耳を澄ます。
岬の先まで歩く。
階段を昇り、木立を抜け、熊笹を掻き分ける。
こんもりとした無人島が間近に見える。
岩の切り立った海岸線を彼方まで見渡す。
波の上で光がダンスを踊る。
高台に昇る。
眼下に海が広がる。
三角い岩が見える。
缶ビールを飲み干し、ベンチに横になる。
懐かしい夢から醒めた。
どれくらい眠っただろう。
いつの間にか光がやわらかい。
誰もやって来ない。
コオロギが鳴いている。
ちいさな碑が建っている。
ああ、此処に学校があったのか。
明治17年 寺子屋
大正 6年 案内尋常小学校
昭和 4年 案内国民小学校
昭和42年 廃校
この地に寺子屋を開いた豊本氏。
明治17年から昭和にかけて318人の生徒を送り出した。
この風景を見ながら60年以上も教鞭をとっていたのか。
どんな人生だったんだろう。
子供たちの歓声も聞こえてくるようである。
夕方の風が吹いてくる。
海の青が深くなってゆく。
水平線が赤く染まってゆく。
ただ大きな風景をじっと見ている。
全ての風景はこの瞬間に至る途方も無い時間の流れだ。
遠い過去からの時間に身を委ね未来に流れてゆく。
安らぎだけがある。
46億年前の爆発で誕生した地球。
何億年もの間、燃え続ける火の玉。
大量の大気が水蒸気となり蒸発する。
やがて何万年もの間、雨が降り続く。
冷やされた星に海が現れる。
命が生まれる。
波が寄せては返す。
波が岩を削り、岩が砂になる。
子供たちが校庭を走りまわる。
今日も陽が昇り、陽が沈んだ。
やがて群青色の空に星が現れる。
波音が近くなる。
永遠の時が静かに刻まれてゆく。
2003年9月16日 積丹半島