とんとんとん。


布団の中で聞いている。


とんとんとん。


夢の中で聞いている。


とんとんとんとんとん。


懐かしい音。


安心する音。


良い匂い。




「あれっ、まこと君。はやいねえ」


目を擦りながら台所に行くと、まこと君が来ていた。


朝7時すこし前。


おむすびを握っている。


大きな手で握る、まこと君のおむすびは、かなり大きい。


橋本さんはウインナーを炒めている。




ああ、そうか。


今日は、まこと君の家の稲刈りだ。


そのためのお弁当だ。


やがて二人分ほどの大きなお弁当が出来た。




三人で朝御飯を食べた。


今日でお世話になった橋本さんの家を発つ。


「好きなだけ居て下さいね」


こちらもゆっくりさせてもらおうと思っていたのだが


あまりに充実した濃い時間を過ごしたので二日間で満足してしまった。


気持ちが先に向かっている。


「ホント、どうもありがとう。絶対、また、来ます」




「これ持って行って下さい」


「えっ、俺に」


朝から、ふたりで作っていた大きなお弁当だった。


何かお金では買えないおみやげを持っていってもらおうということで


作ってくれたのだそうだ。


橋本さんは夕べ、かなり遅かったのに。




なんて素敵なおみやげなんだろう。


なんて素敵なふたりなんだろう。


ありがたい。


さりげなく受け取ったが、涙が出そうだった。




二人分はある大きなお弁当。


景色の良い処があるとバイクを停めた。


何度かに分けて少しずつ食べた。




「初めて食べた時、何ておいしいんだろうと思って


それ以来、お弁当には必ず入れるんです」


橋本さんの好きなクリームコロッケ。


まこと君の大きなおむすび。


ウインナーに玉子焼き。


ちくわの中にはキュウリとチーズ。


おいしいなあ。


食べるたび、ありがたく、気持ちを嬉しく味わった。




今日は旅に出てから71日目になる。


夕方前に、ひさしぶりの実家に着いた。


作ってくれた二人の話をしながら、食べきれなかった、最後のおむすびを出した。


「おばあちゃん、無事に帰ってきたよ」


母親は、そう言いながら大事そうに仏壇に供えた。













          2003年10月11日 南魚沼