「また10年後にやろうぜ」
実際にどうなるかなんて分からないが言葉にしてみる。
「あったりまえじゃん。やろう。やろう」
奴が同意してくれたら実現したも同然だ。
長い旅に出るため会社を辞めた。
その5日後にライブを行った。
大学の頃に組んだバンドの10数年振りのライブ。
ケネの家でライブのビデオを見ながら飲む。
会うのはライブ以来だ。
「次は10年後にやって、そのまた10年後にもやろう」
「良いねえ。その時は、56歳かあ」
「で、また、10年後、その10年後も」
「良いねえ。10年に1度ライブをやるバンド。
でも、どんなんなってるんだろう。76だよ」
「誰かひとりくらい、いなかったりして」
「ハハハ」
ビデオテープの中の自分がMCを始める。
「次の曲は、初めてライブをやった時、一曲目にやった曲です。
もう100回、200回とやってますが、いつも新しく唄っています」
歌は古く新しい。
今回のライブでは極端にテンポを落とした。
トシがリフを変えた。
新たに出来た音の隙間に、短いメロディを差し込んだ。
新しい「鼻からちょうちん」
より太いグルーヴが前面に出るようになった。
会場全体がひとつになって揺れている。
良い感じだ。
人生なんて鼻ちょうちん。
昼寝の間に膨らんで、パチンと弾けてさあ終わり。
だから、しっかりと夢をみようと思う。
「まあ、次の10年後くらいは何となく想像出来るけど。
相変わらずみんな独り者なんだろうな」
「そんなこと無いよ」
ケネの反応は意外だった。
「じゃ、サルちゃんか、タムラ?」
堅実そうな二人の名前を挙げてみる。
「いや、俺」
「へ?」
「俺、結婚するんだ」
「うっそ?」
「まじ」
「まじ?」
「まじ」
「まじー!」
いやいや、あのケネが結婚かあ。
そういえば、ひさしぶりのこの部屋、何か違うと思ってたよ。
台所に小さな花が飾ってあったり。
こざっぱりとした食器がキチンと洗ってあったり。
トイレに可愛い絵が掛かっていたり。
そうか、そうか。
あのケネが、とうとう。
「おめでとう」
なぜか思わず頭を深々と下げていた。
「えー、メンバー紹介をします!
ギター、金井 正明!
ケネ!ケネです!
えー、ケネは幼稚園の頃から、ずっと知っていて。
小・中・高校と一緒で。
掃除の時間にバンドやってました。
こうホウキをギターに。
古くからの友達です。これからも友達です」
次の春にはケネが結婚。
サルちゃんは、きっと国家試験に受かって、新しい仕事を始めるだろう。
トシが大阪で、タムラが名古屋で。
俺は世界に向かって出発する。
あの暑かった夏を思い出す。
初めて5人が集まった、大学の地下室。
あの時から、でかい音を出すバンドだった。
10年後には、どうなってるだろう。
まあ、相変わらずだろう。
楽しみだ。
よし、10年後。
またやろうぜ!
それぞれの旅の途中に。
2003年10月17日 戸田