門前町に響く下駄の音を布団の中で聞いた。


何処からか朝の子供の声も聞こえる。


薬王寺へと伸びる商店街をトコトコ走り国道55号へ。


まずは室戸岬を目指し、それから先は行ける処まで。


左に海を見ながら南に走る。


入り組む静かな内海は緑色に輝く。







「何が釣れるんですか」


「烏賊や、烏賊、


今は季節的にちっさいけどな、季節的に」


おじさんは釣竿を下ろすと両手を30センチほどに広げた。


「一年で、これくらいになるわ。


何でも喰いよるからな。あいつら獰猛だから」


おじさんは何かを探すように海を見ながら桟橋を歩き回る。







「あれら、産まれたばかりの奴らや」


おじさんの指さす方を見るが何も見えない。


しばらく凝視する。


白っぽい指の先くらいのものが揺ら揺らと見えてきた。


「あれがですか?」


「そうや。ちっさいやろ。


あいつら生意気にも墨、吐きよるんやで」


おじさんは小石を探し、海に放り投げた。


緑の水中に、たくさんの黒い小さな花が開いた。







            2003年10月27日 宍喰町