「ハロー、アキヒトは好きですか」




それはスーレー・パゴダでのこと。


首都ヤンゴンの街は、この寺院を中心に作られている。


まずは、この国のヘソに挨拶ということでやって来たのだ。




いきなり話しかけてきた奴はミョー。


ミャンマー人、23歳、童貞。




アキヒトって誰だよ。


エンペラー、エンペラー


ああ、天皇のことか。


うーん・・・そうだなあ・・・


えーと・・・


いやいや答えにくいこと聞いちゃいました。


じゃ、コイズミは好きですか。


こんどは首相か。うーんとね・・・


分かりやすい言葉を使うところは好きで


命に優しくないところは好きじゃないな。


そうですか、コイズミはミャンマーの女性に人気があるんですよ。


あなたの髪もコイズミみたいに長いから、きっと女性にモテますよ。


ホントか、おまえ調子が良いな。




ミョーは大学で日本語を勉強しているとのこと。


日本の文字はベリー・キュート、サムライ魂はベリー・ビューティフルなんだそうだ。








でもローマ字、ひらがな、カタカナ・・・日本語はとても難しい。


そうだろうな、漢字もあるし。


漢字なんてとんでもない。ひらがなが精一杯です。


じゃあ、ミョーの名前を日本語で書いてあげよう。


オーオーオーッ、だったら此処にお願いします。


メモ用紙に書こうとしたら、ミョーは慌ててバックから教科書を取り出した。




MIYOU


みょー


ミョー







4種類の表記で彼の名前を書く。


この字には意味があるんだけど分かるかな、「妙」を指しながら言う。


イット・ミーンズ・ファニー


ユー・アー・ファニーマンだ!


はははは。


イヒヒヒヒヒ。


ミョーは、なぜかイヒヒと笑う。




ガイドブックは持ってますか。


カメラ・バックに押し込んだガイドブックを取り出す。


オー!キュート!


ミョーは「地球の歩き方」と印刷された文字に頬擦りし、


「奥深い微笑み」と印刷された文字を愛しそうに撫ぜる。


ミョー、やっぱおまえはファニーマンだよ。


イヒヒヒヒヒ。




ミョーは丁寧にガイドブックを開いてゆく。


ミャンマーの見どころのほとんどが仏教寺院であるため


どのページにもパゴダや仏像の写真が載っている。


信心深いミョーはページをめくるたび写真に向かって手を合わせる。




「ハブ・エバ・ビーン(行ったことある)」


「グッド・プレイス」


「グッド・ブッダ」


ミョーにとっては全てがグッド・プレイスでありグッド・ブッダであるようだ。




バガンのページにさしかかった。


バガンはアンコールワット、ボロブドゥールに並ぶ世界3大仏教遺跡であり


自分がミャンマーで一番行って見たい場所でもある。


バガン・グッド?


ノー!


ミョーの答えは意外だった。


ノーグッド?


イエス、ノーグッド・・・


バガン・イズ・エクセレント(素晴らしい)!


はははは、ミョー、なかなか言ってくれるじゃんかよ。


イヒヒヒヒヒ。




それぞれの国の話。


今の生活。


カメラ、コンピューターの値段。


家族の話。


拙い英語でいろいろな話をした。


ミョーは亡くなった父親の写真も見せてくれた。


少し日本語の勉強もした。







テツさん、短い時間だったけど、とても楽しかったです。


とてもエキサイティングな時間でした。ありがとう。


ミョーは財布からラミネートされたブッダの写真を取り出した。


これ旅のお守りです。持っていてください。


本当に良いのか。


亡くなった父親の写真と一緒にしまってあったブッダの写真は


ミョーにとってとても大切なものみたいだったからもらうのに躊躇した。


持っていて欲しいんです。


チェイズティンパーデー(ありがとう!)


親切はありがたく受けるものだ。


こちらから渡せるものはチョコレートしかなかった。


テツさんは旅人だからお腹がすいて困ることもあるでしょう。


ギブ・アンド・テイクはミャンマーのカルチャーじゃないんです。


ミョーはどうしても受け取らなかった。




オーケー、じゃあ、もう一度テキストブック出して。


先ほど書いた「妙」の下に「明」と書き加えた。


この字もミョーなんだよ。


イット・ミーンズ・ブライト


ユー・アー・ファニー・アンド・ブライトマン!




テツさん、ありがとう!


ハブ・ア・グッド・トリップ!


オーケー、チェイズティンパーデー!ブライトマン・ミョー!


ハブ・ア・エクセレント・ライフ!



イヒヒヒヒヒ。




そういえばライフ(命)もミョーだなと後になって思った。


エクセレント・ミョー、また会おうぜ。












              2004年1月19日 ヤンゴン