オールド・ハバナの市場でトマトを買っていた。
ふくらはぎに痛みが走った。
足元に石が転がった。
何者かに石を投げられたのだ。
後ろを振り向くが、そこにあるのは市場の喧騒、誰にやられたのか分からない。
市場に入った時から、自分に好奇の目が集まっている事は感じていた。
向き直る。
誰がやったのか見ていたであろう者達も、何も見ていない顔を作っている。
今度は背中にぶつかった。
分からない犯人達を、しばらく睨みつけた。
同じような事がメキシコでもあった。
宿のドア・ノブに鍵を入れ、開けようとしていた。
一瞬、ひゃっとした鋭い気配が背後に走り、泥水を被った。
走ってきた車に、水たまりの水を跳ねられたのだ。
わざとやったとしか考えられない。
そうでなければ、あんな歩道すれすれを、あのスピードで走るはずがない。
様々な思いが、同時に湧き上がる。
犯人は、どんな気持ちでやったのだろう。
単なる差別意識なのだろうか。
日常の憂さ晴らしなのだろうか。
持たざる者のやっかみなのだろうか。
いずれにしても、つまらぬことだ。
何の為に人は人を傷つけるのだろう。
他者を傷つけることは自身をも傷つけている事に気がつかないのだろうか。
罪と罰は繰り返す。
私達は同じひとつの木に繁る一枚の葉なのに。
いつの頃からだろう。
向けられる悪意の中に、救いを求める心が見える。
もがき苦しむ心が悪意になって、許されることを求める。
悪意は何処へ向かうのだろう。
向けられた悪意は、いつの日か、俺が天に放った唾だ。
受け入れよう。
今は乗り越える強さみたいなものを獲得すれば良い。
俺は試されているのだと思う。
全ては運命に向かう自らの意思だ。
あの時、俺はひとりぼっちでうつむき歩く哀れな旅人になることも出来た。
あの時、俺は全てを受け入れ前を向いて歩く旅人になることも出来た。
俺は受け入れ許し、前に進む旅人になりたい。
私達は日々のちいさな闘いに勝ち続けなくてはならない。
時に敗北することがあれば、それは明日への糧にすれば良い。
後戻りは、より遠くへ飛ぶための助走だ。
永遠の目で見てやる。
長く曲がりくねった道は続く。
2004年3月30日 オールド・ハバナ