空に太陽があった。
此処に人生があった。
目を閉じて波音を聞く。
残像を超えて鮮やかな青い海が広がる。
あまりの青さに息を飲んだ海は既に自分の一部だ。
太陽の光が海面にぶつかり、波の上に散らばっている。
一日に一度か二度通過してゆくボートが見える。
ココナツの葉影が俺の上を移動してゆく。
日に焼けた腕からは香ばしい良い匂いがする。
海鳥が直角に突き刺さる。
くちばしを持ち上げ魚を飲み込む。
俺はひと房の果実を口にする。
やがて細胞の花が開く。
遠い昔の夢を見る。
どれくらい遡った記憶だろう。
やわらかい気持ちだけが漂っている。
イグアナがのっそりと現れる。
犬がやってきて隣に座る。
頭の赤い鳥が椰子の木を突き、虫をついばむ。
目の前の世界に明日を憂う者はいない。
海からの風が強くなる。
現れ始めた星を数える。
月のない夜。
南十字星。
数億年の彼方から届く光。
天井に吊った袋からパンをかじる。
旅の時間のほとんどはロウソクの火を見つめ続けるようなものだ。
やがて吹き消しハンモックを揺らす。
波音が近くなり遠くなる。
夜明けに赤い三日月が現れる。
夢の中で朝を待っている。
朝が来たら次の町へ行く。
2004年4月16日 トゥルム