「それは一体何ですか」
欧米人からカバンに付けているお守りを指差された。
「ラッキー・アンド・プロテクト」
相変わらず拙い英語で咄嗟に答えたが、意図することは伝わったようである。
長距離バスを待っている時だったので、周りに居た様々な国の人々が次々に覗き込んだ。
「ラッキー・カム・カム、プロテクト・プロテクト、アンダースタンド?」
人々は口々に「ブエノ」とか「クール」とか「ハポーン」とか言った。
常に持ち歩いているカバンには緑と赤、ふたつのお守り。
キャスターバックに付けている南京錠にはダライラマのプレート。
財布の中にはミャンマーのミョーからのブッダの写真。
そして他にもたくさんのお守りがバックの中に忍ばせてある。
全ていただいたものである。
「あなたはラッキーね」
カナダ人の女性からは、そう言われた。
旅行者との会話では、お互いの旅が必ず話題になる。
必然的に数年かけて世界中を旅することを話すことになる。
ラッキーだと言われた時は、「そうだね」と頷きながらも
そうは言っても職を無くした訳だし、他にもリスクを負ってるんだとの気持ちが強かった。
強い陽射しを避けてサントドミンゴ教会のベンチに座っていた。
視線のずっと先にはトイレがあった。
男女それぞれ二ヶ所ある真ん中に小さなスペースがありオジサンが座っている。
オジサンはトイレの利用者から小銭を徴収しているのだ。
お金を受け取るとロール・ペーパーを切って渡し、トイレに掛けられた南京錠を外す。
それを毎日繰り返す。
オジサンの人生に思いを巡らした。
やはり俺はラッキーなのだと思った。
比較ではない。
トイレ番のオジサンを見ていて強く思ったのだ。
世界がひとつの村だとしたら、自分は明らかに1パーセントに相当する裕福な人間だ。
自分が旅を出来るのは、今の時代に日本に生まれたからだ。
それは単についているだけのこと。
ラッキーだ。
人生はギャンブルだと誰かが言っていた。
ツキを使うのを惜しんではダメだ。
使い方は礼儀正しく、時に謙虚に、時に大胆に。
ラッキーを手放しながら、全てを循環させる。
旅が出来ることを自分が幸せだと思えることもラッキーだ。
旅が出来ても不幸せな者もいるだろう。
トイレで小銭を集めていても幸せな者もいるだろう。
俺は旅がしたい。
傲慢にならないように感謝の気持ちを持って旅を続けよう。
お守りが揺れている。
同じ空の下を歩いている。
一歩前に進むごとに世界は変わる。
2004年4月19日 パレンケ