小高い丘の上にあるサンクリストバル教会。


教会へと続く階段を上がっていた。




3人の子供が寄ってきた。


4、5歳くらいのハナタレ小僧達だ。


手に手に紙を持っている。


数人の外国人の名前が書いてある。


何やら名前を書いてくれと言っているみたいだ。


よしよし、それくらいお安い御用だ。




出会った子供に、その子の名前を書いてプレゼントすることは良くある。


日本語が珍しいようで、なかなか好評で簡単な贈り物なのだ。


自分を取り囲んだ子供達も、そんな無邪気な物珍しさから


各国の言葉で書かれた名前を集めているのだろう。




じゃ、まず、君からだ。


差し出された鉛筆を受け取る。


その段階で、すこし変だと思った。


子供達の微妙な緊張感を感じた。


そして、名前を書こうとしても紙を離さないのだ。


他の二人も何やら右上のスペースを隠すように紙を持っている。




ちょっと、この手をどけてみて。


スペイン語で書かれた文字が現れた。


書いてある内容は理解できなかったが


「20ペソ」と書かれているのは分かった。




「私は20ペソを寄付します」


きっと、そんな内容が書かれているのだろう。


危うくハメられるところだった。


他の二人の紙も見たが、同じように20ペソだ。




だめ、だめ。


こんなのにはサイン出来ません。




自分のメモ帳を取り出す。


サインをして3人それぞれに渡した。


「花は良い、人は良い、金は良くない。 金子 鉄朗」







丘の上の教会を見て階段を下りた。


サンクリストバル・デ・ラスカサスの町並みが広がる。


この町が山に囲まれた盆地にあるのが良く分かる。




階段の途中で立ち止まり、写真を撮った。


レストランからおにーさんが出てきた。


良かったら中に入りなよ。こちらの方が眺めが良いよ。


確かに、階段の両脇にある木々が視界を遮り、電柱が目障りだ。




レストランに入ると2階に上がる階段があった。


2階もレストランになっていて更に上に上がる階段がある。


そこを上がると屋上だった。


ここは雑然としていてレストランのスペースではなかった。




手すりにもたれ掛かる。


眼下には180度を遥かに超えた眺望が広がる。


渡ってゆく風が笑っている。


気持ち良いなあ。


深呼吸。


町並みに午後の日差しがきっぱりと降り注いでいる。




声を掛けてくれた、おにーさんが隣にいる。


良いでしょう。俺は毎朝、この風景を見ているんだ。ゆっくりしていってね。


彼はそれだけ言うとオーダーを取るでもなく行ってしまった。


しばらく景色を堪能させてもらった。




ムーチョ・グラシアス。ありがとう。


両手を合わせてオリエンタルなポーズでお礼を言った。


ありがとう。


おにーさんが気持ち良い声で繰り返した。


今度はビールを飲みに来よう。







サンクリストバル教会。


階段の上りと下り。


それぞれに印象的な出会いであった。


どちらが良く、どちらが悪いとは思わない。


ただ、どちらも人間だなあと思った。


ただただ、どちらも人間らしくて無性に嬉しくなってしまったのだ。















      2004年4月22日 サンクリストバル・デ・ラスカサス