忘れるだろう


忘れるだろう


今日 一日の出来事など


明日になれば 分かるだろう


たぶん 明日も 生きてるだろう









バスの窓には風景が流れ続ける。


昨日の事を思い出してみる。


起きたのが朝5時半。


バス・ターミナルに向かい、サンドイッチとコーヒーで簡単に朝食。


ロハの町を出発したのが予定通りの7時。


お昼近くに国境の町、マカラに着く。


町に一軒の食堂で、アルメールソ(定食)を食べる。


バスに乗り降り、手続きを済ませ、歩いて国境を越える。









エクアドルからペルー。


再度、バスに乗り、宿泊を予定している町ピウラを目指す。


時折「FUJIMORI 2006」と書かれた壁を目にする。


ペルーに入り約3時間、ピウラに着く。


その日の宿を探し、荷物を降ろし、町を歩く。


ピウラの町は、トゥクトゥクが走り回り、屋台も多く、アジアの喧騒を思い出す。


メルカドにある、セビッチェ(レモン風味海鮮サラダ)の店に行く。


教えてもらっていた通りなかなか美味い。


ペルーでの初ビールは「ポラール」という名の黒ビール。


コクがあってセビッチェに合う。


気持ち良く夜の町を歩いた。


夜8時半、旅の疲れか、無事国境を越えた安心感か、部屋に戻るとすぐに眠りに落ちた。









窓の外には、砂漠が広がり、流れている。


昨日までの風景からは、想像も出来ないような変わりようだ。


エクアドルからペルーへの移動では3000M近い標高差があったのではないか。









森林限界を超えた殺伐とした岩山の風景。


緑鮮やかな牧草地が広がる高原の風景。


タペストリーのような色とりどりの畑が続く風景。


畦道に椰子が伸びる東南アジアのような田園風景。









そして、今、砂漠の中を走っている。


アップ・ダウンを繰り返す山道の移動では、200キロが一日に動ける限度だ。


今日の移動は、ピウラからチクラヨを経由してトルヒーヨまで。


海岸近くの砂漠を突っ走り、500キロを越える距離が稼げる。


真っすぐに伸びるハイウェイはバスの振動も少ない。


これなら本だって読める。


ひらすら続く砂漠の風景にも飽き、カメラバックに突っ込んだ文庫本を取り出した。









旅行者同士、読み終わった本を交換する。


日本を離れる時手元にあった「ヘミングウェイ短編集」は


5回の交換の後「あすなろ物語」になった。


井上 靖の作品を読むのは初めてのことだ。


この作品は著者自身の半生をベースとした自伝的な物語だ。


幼少期、青年期、社会人。


さまざまな出会いがあり、別れがあり、経験があり、成長がある。


明日こそは檜になろう、明日こそは檜になろうと願いながら


永遠に檜になれない、あすなろう(羅漢柏)の木。


そんな説話が何度も登場しながら物語が進む。


人間の運命の持つ切なさ。


そこに注がれる著者のまなざしは温かく、人が生きるいじらしさを愛しく思う。


あすなろの悲しみ。


どんな大木も天までは達しない。


俺は光になりたい。


明日は知らない。


今、この瞬間。


いつしか思いは本を離れ流れ出す。


変わらない砂漠の風景が流れている。












           2004年7月7日 トルヒーヨ