馬に跨った男。


ロバを連れた少年。


カラフルな風呂敷を担いだインディヘナのおばちゃん。


ペルーからボリビアへ。


この国境はホントのんびりしている。


国境というと悪い奴らがうようよしているイメージなのに、気が抜けてしまう。


「カンビオ(両替)!」の声さえかからない。







イミグレーションは田舎の派出所のようだ。


入国審査官は居眠りをしていた。


「ここ何て書くのか分からないのだけど」


スペイン語の書類を指差し聞く。


「ノープロブレム」


無記入のまま入国が許可された。


良い良い、平和な証拠だ。




国境からコパカバーナの町までは乗り合いタクシーで20分。


荷物は屋根の上。


「セニョール、後ろに移ってくれ」


助手席を空けると、そこには年下らしき男女が坐った。


「ようこそ、ボリビアへ」


後部座席の叔父さんは、丁寧に横にいる奥さんまで紹介してくれた。


開けたままのトランクには3人の男が乗る。


8人のボリビア人と1人の日本人。


4人乗りの小型乗用車(日本製)がボリビアを走る。




「ドンデ・ホステル・フロレンシア?」


車に乗り込みかけた二人のポリスにホテルの場所を尋ねる。


説明する言葉は理解できないが、何やら後部座席を指し示している。


乗せてくれるのか。


「グラシアス!グラシアス!ムーチョ・グラシアス!」


たのむぞ、ちゃんと連れて行ってくれよ。


ポリスはパトロールのつもりなのか、ゆっくりゆっくり車を走らせた。


そうかと思えば、すぐに車を止める。


道の真ん中に車を止め、乗ったまま、レストランの男と話をする。


少し進み、屋台のコピーCD屋の男と話をする。


とても仕事の話をしているようには思えない。


後ろの車にクラクションを鳴らされ、やっと動き出す。


「クワント?(いくら払う?)」


目的のホテルの前に着くと、ニヤリとしながらポリスが振り返った。


道には犬がいるだけで、人通りはない。


「いくら払う?ハポネスは金持ちなんだろ?」


「シーシー、しょうがねーな、優しいポリシアにプレゼントだ。ビッグマネー」


国境で替えたばかりの10センターボ・コイン(約80分の1ドル)を渡す。


ひとりに一枚づつ。


「平等にね」


二人はコインを見て大笑いを始めた。


「ありがとう。気をつけてな。ハポネス」




「ブエナ・ビスタ・ハビタシオン・ポルファ・ボール(眺めの良い部屋、お願いします)」


確かにそうリクエストしたのだが、びっくりした。


通された部屋は、1室だけ飛び出した最上階の5階。


周囲に高い建物はなく、町全体が、完全に見渡せる。


180度広がるチチカカ湖も、ひとり占め。


しかも、部屋の四面全ての壁がガラス張りだ。







値段を聞いて、さらに驚いた。


「ディエス・ボリビアーノ」


思わず日本円に直してしまった。


一泊、138円。


そんなに安いのか。


(今まで泊まってきた部屋では2ドル台が最安)


更に365をかける。


5万円ちょっと。


うーん。


昼間は温室のようにポカポカと暖かい。


部屋に居たまま、チチカカ湖に沈む夕日が見える。


左側に見えていた月が、目覚めると、右側に移っていた。


宿のおばさんも明るくて親切だ。


ホテル・フロレンシア、最安にして最高!




コパカバーナの町に出て、まずはメルカドを目指す。


チチカカ湖で採れたトルーチャ(鱒)が食べられるのだ。


カナダから来たものが繁殖したらしい。


カリッと揚げられた鱒。


次回は醤油持参で塩焼きをリクエストしてみようと思った。




町はこじんまりとして歩きやすい。


フォルクローレが聞こえてくる。


インディヘナのおばちゃんも多い。




地元の人が買い物に集まる細い通りを歩く。


「コニチハ!」


左手の店から声がかかり、オッと立ち止まる。


「トモダチ!」


続けざま右手の店からも声がかかる。


「トモダチ!サヨナラ!コニチハ!ネコ!」


店の中に恰幅の良いおばさんの笑顔が見えた。


それにしても、なぜかネコ。


「オラ!ネコ!ネコ!ネコ!」


その店の前を通るときは、そう挨拶しながら通り過ぎた。







コパカバーナはインカ帝国時代から宗教的な場所だったらしい。


カテドラルにはボリビアで一番古い祭壇が飾られている。


そんなことからも多くの信者の厚い信仰を受けている。


ボリビア国内からの観光客も多そうだ。


ひろびろとしたカテドラルの敷地を歩く。


中学生らしき女の子達から、なぜか写真撮影とサインを求められた。


「愛と勇気 金子 鉄朗」




「あ、日本人なんですね」


「こんにちはー」と声をかけると、そんな返事が返ってきた。


実はこちらも日本人かなあと思いながら声をかけたのだ。


彼はミズキくん。


手作りのドゥジュリジュ(アボリジニの楽器)を道で売りながら旅している。


彼のようにアクセサリーなど自分の作品を売りながら旅する人をアルテサンニャと呼ぶのだそうだ。


自分もアンティグア(グアテマラ)では,、公園でオリジナル・ポストカードを広げてみた。


売る行為を越えたコミュニケーションが楽しかった。







ミズキくんの相棒のカズヤくんも混ざり旅の情報を交換する。


ボリビアにあるサハマという場所がサイコーに良いらしい。


山がきれいで、広い大地があって、一面にリャマがいて、温泉がある。


まだガイド・ブックに紹介されていないので、訪れる人がほとんどいないらしい。


彼らはそこが気に入って、再度、行くのだそうだ。


「良かったら、俺も連れて行ってくれないかな」


サハマにも行ってみたいが、この二人が良いなと思った。


彼らのピースフルな空気感と距離感が良いなと思った。


ふたりは「是非!是非!」と喜んで賛成してくれた。


適当に連絡を取り合ってラパスで合流することにした。


楽しくなりそうだ。


ボリビア!






             2004年7月29日 コパカバーナ