不覚にも泣いてしまいそうになった。
サラダせんべい。
おばあさんのポタポタ焼き。
こつぶっこ。
海苔巻き煎餅。
店頭に並ぶ商品の、そんな文字を見ていた時だ。
場所はスーパー・オキナワ。
サンタクルスにある、日系移民が経営するスーパーマーケットだ。
見慣れた文字がこんなにも安心感を与えてくれるのか。
自分でもびっくりした。
日本を離れて5ヶ月。
海外での生活に慣れきって、少しは気を引き締めないとと思っていた頃だ。
無意識の内に、こんなにも緊張を強いられていたのだなあ。
自分を取り巻く、意味の分からない言葉。
街中に溢れている、意味の分からない文字。
サッポロ一番。
おたふくソース。
バーモンド・カレー。
ごはんですよ。
嬉々として店内を歩き回っている自分がいる。
安心感に包まれる。
すごい快感がある。
美しい風景を眺めているのとは、また別の快感がある。
サーターアンダギーを買った。
「良かったら何か音楽を流してもらえませんか」
ひろびろとした中庭に面したテーブル。
沖縄料理屋 「金鍋」
CDラックには、加山雄三、マーラーの文字が見えた。
何でも良かった。
風が吹いてくる。
メロディが流れてきた。
やばい。
♪でいごの花が咲き
♪風を呼び 嵐が来た
やばい、やばい、また涙が出そうになる。
なんなんだ、俺は。
♪ウージの森で あなたと出会い
♪ウージの下で 千代にさよなら
ダイレクトに触るなあ。
旋律。
和声。
響き。
♪島唄よ 風に乗り
♪届けておくれ 私の愛を
オーダーしたチャンプルが運ばれてくる。
おー!これだ!これだ!
しょう油と油で炒めた野菜が、これほどまでに美味いとは。
響く、響く。
♪わたしが あなたに 惚れたのは
♪ちょうど 十九の春 でした
指笛のタイミングで、南米の鳥が囀る。
指笛のタイミングで、鼻水を啜る。
♪春が来るよな 夢を見て
♪ホケキョ ホケキョと 鳴いていた
そうか、そばというよりはスープなんだ。
前のテーブルでは、ボリビア人が沖縄そばにパンを浸して食べている。
後ろのテーブルからは、沖縄独特のイントネーションが聴こえている。
工場で飲んだ出来立てのオリオンビールが絶品だったのだそうだ。
♪僕が生まれた この島の空を
♪てぃんさぐーぬ 花や ちみさちにすーみて
♪花は流れて 何処何処 ゆーくーの
良いなあ。
おおらかで、温かい。
ビールも美味い。
すっかり、ゆるゆるだ。
ネーネーズが都会に住む、うちなんちゅに向かって歌いだす。
うちなーの風。
自分の中の沖縄は、確実に母国の風であった。
2004年8月11日 サンタクルス