砂時計のように空から欲望が落ちていた。


ある日の午後。


電車に乗っていた。


アポイントのある仕事先へ向かっていた。


車内が白い光に包まれ、自分が世界と切り離された。


現実感が遠のき、自分が自分と切り離された。


身動きがとれない。


目的地を過ぎても降りられない。


境界線上の戯れ。


目の前を流れる風景が、別世界に思えた。


家、家、家、家、家。


車、車、車、車、車。


道、橋、看板、電車、線路。


全てが欲望の塊に見えた。


この世界の全ては、空から落ちてきた欲望によって、形作られていると思った。




突き出た高台の岩に腰掛け、眺める。


断崖絶壁上に築かれた空中都市。


マチュピチュ(老いた峰)


侵略者に追われたインカの人々が生活していた場所。


町を焼き払い、さらに奥地へと消えたインカの人々。


凄い!


素晴らしい!


感動した!


マチュピチュを訪れた多くの者から聞いた言葉。


その先が知りたい。




遺跡を前にして思うのは、人間の営み。


笑い声。


食卓。


祈り。


笛と太鼓。


段々畑。


生きて死んだ魂。


遺跡を前にして思うのは、人間の欲望。


限りない欲望。


美しく、醜い、欲望。


汗が流れた。


血が流れた。


時が流れた。


欲望に時間が沁み込んでゆく。


欲望に歴史が降り積もってゆく。


新しい生が始まる。


新しい生が流れる。


砂時計は止まらない。












         2004年9月2日 マチュピチュ