ひとり旅が好きだ。
この旅を始めてから1年2カ月、意識的に、ひとりで旅をして来た。
自分自身との対話という土台の上で世界と向き合いたいからだ。
3月にカンクン(メキシコ)で会った、ひさの(宇宙人)が9月ペルーにやってくるという。
自分がペルーにいるタイミングとも調度合う。
旅は道連れ。
時にはふたり旅も良いだろう。
クスコで合流して一緒にチチカカ湖の島へ行くことにした。
お互いが見た美しさ、お互いが感じた美しさ。
ふたつの視点を交感させながら旅が出来たら良いなと思った。
しかし、結果的にはアホな話ばかりをしていたように思う。
思い描いたような旅にはならなかったが楽しかった。
時には、こんな時間も必要だと思う。
★ひさのすけ旅日記、9月14日より★
今日の朝は早かった。
居心地のよかった八幡&クスコを離れ、てつさんと共にプーノへ向かった。
今まで長距離バスを避けてきた私。
だって酔いやすいし、道悪いし、強盗が出たり、
盗難に遭ったりするかもしれないしいいことないじゃないか!
しかし今回は半強制的にバスにさせられてしまったのだ。
「鉄道で行きたいんですけど・・・」という私の切実な訴えは、
「いや、高い!」というてつさんの声に一蹴されてしまった。
しかしてつさんが交渉してくれたため二人30ソルで乗ることができた。
まじ感謝です。
ペルー来てから初めて長距離バス乗るなあ。
景色がべらぼうに綺麗だ。日本じゃ絶対見られないだろうな。
しかし、感動も長くは続かない。所詮は私なのだ。
もともと酔いやすい私は、風光明媚な景色を愛でる間もなく数時間後死亡した。
バス内の掘っ立て小屋のようなトイレに閉じこもった後復活したが、
死んだ魚のような目をしてたんだろうな。
しかし私はなんとか元気になろうと、昔とある番組に出ていた「雲を消す男」の話をてつさんにした。
するとてつさんはとんでもないことを言い出す。
「え、俺よくバス乗りながら雲消してるよ?」
一瞬、はあ?と思ったが、実際やってみることに。
やり方は実に簡単。
一つの雲に狙いを定め、ひたすら消えろ〜消えろ〜と念じるのだ。
すると本当に消えたではないか!
調子に乗って雲を消しまくっていたら、突然ボンッ!!という破裂音が。
銃弾でも撃ち込まれたか!?と思ったらただのタイヤのパンクだったよ。
でもパンクなんて21年間生きてて初めてかも。
てつさんが撮った「ひさのとパンク」はなかなかいい写真でした。
ひさのドキュメンタリーが作れそうだわ。
パンクしたタイヤを新しいタイヤに交換したらまたバスはプーノに向けて走り始めた。
山ばかりの景色が続いていたが、突然葦の生い茂る沼地のようなものが見えてきた。
あれがまさしくチチカカ湖なのだ。
本当に神様が住んでいそうな湖だよ。
明日の島巡り楽しみだなあ。
プーノの街中は見所少ないけど、ローカルチックでなかなかいいわ。
ひさのとクスコの宿「八幡」で合流して、チチカカ湖畔のプーノに向かった。
宿帳を見て、彼女の名字が「小野田」だということを、初めて知った。
カンクンでは一度食事を共にしたきり。
連絡先を聞いていなかったこともあり、その後、連絡を取り合うことさえなかった。
2週間という短い時間でペルーを巡る彼女に、窓際の席を譲った。
車窓を流れる風景と、ひさのの横顔が同時に視界に入る。
まつ毛が長いことも初めて知った。
彼女は、すぐに車に酔った。
「歌を歌ってみろ」とアドバイスするが、歌声を聞くことは出来なかった。
残念。
(そうそう、彼女が合唱部に所属していることも知った)
雲を消す方法と、指を長くする方法を教えたら、ずいぶん酔いが紛れたらしい。
宇宙人ぶりを発揮して雲を消しまくる。
「砂漠が増えるから、ほどほどにな」
★ひさのすけ旅日記、9月15日より★
8時15分にManco Capac Inn発でチチカカ湖巡りツアーへ。
プーノの港から船に乗り、まずはウロス島へ。
島全体がトトラでできているというのは本当だったのね。私一人乗ったくらいじゃびくともしないし。
お土産専門島?と思うくらいお土産屋以外何もない。後はトトラでできた家かなあ。
島自体が観光の目玉なんだろう。
お土産をある程度物色した後トトラでできた船バルサに乗って他の浮島へ。
ここの人たちにとってトトラは欠かせないものらしい。
ちなみにトトラ食わしてもらったが非常にまずかった。味のないネギみたいな?(なんじゃそりゃ)
ウロス島で子どもたちと遊んだ後、アマンタニ島という今夜泊まる島へ。
アマンタニまでの道は長かった・・・。
さっき飲んだオレンジジュースが逆流しそうだ。(下品ですまん)
そう言えば昨日もオレンジジュースでバス酔いしたなあ。これは悪意か?
どう考えてもオレンジジュースとバス酔いが結託して私を陥れようとしてるとしか思えん・・・。
そんなことを考えながらいつの間にか眠りこけてしまった私。
(後日談 この時てつさんが私の寝顔を撮っていたらしい。てつさんめ〜)
首が痛くなるほど眠った後、ついに島到着。
ホストファミリーの一人が港で民族衣装を着て待っていた。
この島では、出迎えと見送りの時この民族衣装を着るらしい。
彼女に連れられて受け入れ先の家へ。きれいな部屋に通してくれた。
ぼけーっとしていた私は、入り口で頭をゴチン。かなり痛かった。(当たり前か)
その後、待ちに待った昼食が。懐かしい味がしました。
肉が出ないのが嬉しかった。てつさんは不満そうだったけど(笑)
家族もみんないい人たちで安心したよ。
三歳の子どもがいてめちゃくちゃ可愛かった。みんな英語風の名前なのは何でだろう?
夕食後は民族衣装を着てダンスパーティーへ。
はちきれそうな腹にきつきつベルトは辛かった・・・。
アマンタニ島には電気がないため星がよく見える。あんな綺麗な星見たの生きてて初めてかも。
てつさんいわく、チチカカ湖にはよくUFOが出るらしい。今夜見られるかな〜と期待していた私。
しかしダンスパーティーの最中突然ざーっ!しかも雷がゴロゴロ。
これじゃ私の仲間が迎えに来られないじゃないの!!!
家に帰る途中、またてつさんが変な話をしだす。
「俺、雷鳴るとよく眠れるんだよね。夜中起きると窓開いてんの。そんで白い人が立ってるんだよ。」
これはどういうこっちゃ?それってもしかして幽霊じゃあ・・・。
やっぱりてつさんは謎の人だわ。
ってあんな話聞いたから夜中トイレ行くの怖くなっちゃったじゃないの!
トイレ外にあるし、電気ないし・・・。
そう言えば夕方トイレ行ったときドアについてるおもりがねずみに見えて大騒ぎしたなあ。
三人ぐらい人が集まってきたっけ。
2度めのウロス島。
チチカカ湖に浮かぶトトラの島でガイドの説明を聞く。
この辺りで使われているケチャ語では「チチカカ」の発音は「チチハハ」に近いそうだ。
「すべてが生まれた場所」とも言われる湖が、「父母」だとは面白い。
ホーム・ステイ先での食事は、芋がメインの素朴なもてなし。
健康的だし美味しい。
肉の食べられないひさのは喜んでいるが、3食も続くと体がタンパク質を欲する。
普段は食べたいとも思わないジャンク・フードも無性に食べたくなる。
これは油分を欲しているからだろう。
前回、島に来た時にはUFO(らしきもの)を見た。
午前3時過ぎ、月も沈んだ真っ暗な夜空に、降るような星々を見上げていた。
その時、星だと思っていたひとつが、うにうにと曲線を描いて動き出したのだ。
顕微鏡の中を覗き込んでいるような不思議な感覚だった。
また見られるかなあ。宇宙人に会えるかなあ。
夜は雨になった。
宇宙からのお迎えはまだまだ先のようだ。
ひさのは寝る前に「ひさのすけ旅日記」なるものをつけている。
以前、哲学の授業で使っていたノートが、途中から何の脈絡もなく旅日記になっている。
いい加減だなあ(アクセントは前)
何とかして読んでみたいが「ぜーったい、イヤです!」とのこと。
いーじゃんかよー
★ひさのすけ旅日記、9月16日より★
朝5時におきてしまった私。
てつさんと朝日を見に行った。
死ぬほど寒かったけど、チチカカ湖から上る朝日は最高でした。
朝早くから漁をしている人たちがいて、どこかの漁村みたいな風景。
こんな綺麗な景色見てると日本にいた間悩んでたことがふっきれたみたい。
やっぱり私は今の状態が一番いいのかも知れない。
朝食後ホストファミリーに別れを告げ、タキーレ島へ。
また懲りずにオレンジジュースを飲んでしまったが、今度は逆流の心配はなかった。
わーい、タキーレ島だあ!とはしゃぎたい気分。
散策は最高に気持ちがいいと聞いていた。
・・・がしかし、私は高山病に苦しめられることに。
息はゼエゼエ、頭ガンガンで気分最悪だ。自分の体力のなさを嘆きたくなるわ。
てつさん本当にごめんなさい。しかしなぜあんなにてつさんは元気なんだろう?
頭が痛くて死にそうだったが、きれいな景色を見ているうちに忘れてきた。
港のほうに行くと、最高に眺めがいい。
てつさんの撮ってくれた写真は本当に良く撮れてたよ。最高のショットだわ。
景色を眺めていると、子どもが寄ってきた。シャイだが、観光客に興味があるらしい。
2人でオレオの袋で遊んでたよ。
ペルー来てから子どもと遊んでばっかりいるなあ。
可愛いからついついかまっちゃうんだよね。
それとも私がかまわれているのかしら?
子どもと遊んでいたらガイドのアランがひさのーと呼んだ。もう時間らしい。
子どもと島に別れを告げ、船へ乗り込んだ。
早速船酔いしそうな予感。風に当たったほうがいいと思った私は屋根に乗って景色を見ていた。
こうじさんがチチカカ湖には神様がいると言ってた理由がわかった気がする。
ああここに来てよかった、ととても幸せな気分だった。
ホテルに帰るまではね・・・。
鏡を見て思わず絶句した。外に出ていたため顔が真っ赤になっていたのだ!
それだけではなく、なぜか目が血走っている。
これじゃまるで血行の良すぎるうさ子ではないか!これじゃみんなに笑われるな。
明日はてつさんに別れを告げてアレキパへ向かう。
てつさんいろいろお世話になりました。
てつさんのおかげで安全で楽しい旅をすることができました。
一人だったらとっくに首絞められて失神してます。
また会いましょうね。
タキーレ島では島の南側を、のんびり歩こうと思っていた。
比較的アップダウンも少ない気持ちの良い道だ。
しかし、ひさのの調子が良くない。
歩き廻るのを辞めて、しばらく日陰で休んだ。
その後、どうしても見せたい風景に向かってゆっくりと歩いていった。
途中休み休み。
ひさのにミカンを差し出すと当然のように食べた。
オレンジ・ジュース飲み過ぎで調子が悪くなったんじゃないのか。
良く分からん。
港を見下ろす一番好きな場所で、最後の時間を過ごした。
いつの間にか現れた子供と、ひさのは遊んでいる。
どこに行っても、彼女は子供たちから同類(仲間)だと思われるのだろう。
捨てられたお菓子の袋を何に見立てているのだろうか。
良く分からない遊びが限りなく続いている。
これだけ子供が夢中で楽しんだのだから、ゴミを捨てた奴も、今回だけは許してあげよう。
それにしても、子供の想像力は凄い。
誰もが持っていて、無くしてしまった能力だ。
プーノに戻る船で、ひさのは気持ち良さそうに風に吹かれていた。
彼女は今回、悩み事を抱えての旅だった。
旅の中で答えを出すつもりでいたらしい。
悩みは大学のゼミを辞めるかどうか。
問題は人間関係。
聞いているだけで気分が悪くなるような封建的な世界だった。
「そんな所、すぐに辞めちまえ」
たったひと言で片付けたのは、彼女の中で、既に答えが出ているように感じたからだ。
逃げることも勇気だ。
人生の時間がもったいない。
自由に伸びる感性を大切にして欲しい。
ひさのとはプーノで別れた。
彼女はアレキパ(ペルー)へ、俺はコパカバーナ(ボリビア)へ。
やがて彼女の旅は終わり、大学生活を中心とした日常へ戻る。
またいつか、お互いの旅が何処かで交差する時を想像してみる。
子供の目と永遠の目。
感謝しながら命を燃やす。
俺自身も、軟らかな感性と視点を、ずっと持ち続けていたいと思う。
また、何処かで!
良い日々の旅を!
2004年9月14日-16日 ペルー