クリストファー・アイ・アム・ラブ。
それが彼の名前。
1歳違いのノルウェー人。
ウィ・アー・ホベン(young)。
彼は一年以上世界を旅している俺に驚く。
俺はこの島に1ヵ月以上滞在している彼に驚く。
鉄朗には、どんな意味がある?
鉄・ミーンズ・アイアン、朗・ミーンズ・ブライト。
そう答えてみたが、どうも彼にはピンとこないようだ。
意訳してみるか。
アイアン・ミーンズ・ストロング、ブライト・ミーンズ・ルース(光)、シー?
鉄朗・イズ・ストロング・ルース。
シー、ブエノ!
さらに付け加える。
金子・ミーンズ・チャイルド・オブ・ゴールド。
オー、ブエノ!
クリストファー・アイ・アム・ラブが俺にギターを手渡す。
不器用な左手は未だFのコードが押さえられない。
6弦を繰り返し爪弾く。
広がってゆく音の振動を楽しむ。
いつまでも残る音の余韻を追いかける。
僕には4人のガール・フレンドがいるんだ。
1人目の名前はフエゴ(火)、ファイアー。
彼女は異なる要素を結びつける。
2人目はアグア(水)、ウォーター。
彼女は命の源。
あとは、ティエラ(土)にアイレ(空気)。
もうひとり忘れてるんじゃないのか。
ほら、彼女、ギターラ。
爪弾いていたギターをクリストファー・アイ・アム・ラブに返す。
受け取った彼が同じフレーズを繰り返し弾く。
ギターに合わせてハミングする。
これは、バーニング・スピアのベース・ラインなんだ。
ボニート!
むきだしの山肌の上を雲の影が動いてゆく。
遠い記憶をとどめる湖水が寄せては返す。
ポツリポツリと話す。
スペイン語と英語のチャンポンが共通言語。
お互い思ったことが、時々言葉にならない。
シー、シー、ノー・プロブレマ。
クリストファー・アイ・アム・ラブは言う。
言葉が分からない方が本当のコミュニケーションが出来るんだ。
頭で考えない、それは素晴らしいことなんだ。
ハピネスは日本語で何と言う?
幸福。
紙に漢字で書く。
ついでに「火」「水」「土」「空気」も書いて見せる。
ラクはハピネスじゃないのか?
ラク?ラク?
ああ、楽のことか。
楽・ミーンズ・ハピネス・コン(with)・リラックス。
オー、リラックス!ブエノ!
羊の群れが段々畑を降りてゆく。
一番大切な事をひとつ挙げてみて。
言葉が分からない分、シンプルに答えるしかない。
ふと思いついたことを、そのまま言葉にしてみた。
コラソン(心)
ムジカ(音楽)・イズ・コラソン。
ペインティング・イズ・コラソン。
アモール(愛)・イズ・コラソン。
ゴッド・イズ・コラソン。
ライフ・イズ・コラソン。
トド(all)、コラソン。
太陽が高くなる。
庇の影が伸び、ふたり並んだ膝にだけ日があたっている。
水際を歩く牛が打ち上げられた水草を食む。
2匹の仔豚がじゃれあいながら歩いてくる。
にんじんジュースを飲む。
ポツリポツリと話す。
仏教の話。
パワースポットの話。
役割の話。
旅の話。
ポツリポツリと話す。
バーニング・スピアのベース・ライン。
もう半日こうしている。
青空に白くハーフ・ムーンが浮かんでいる。
音も無く時の足跡が刻まれてゆく。
2004年9月23日 太陽の島