この星は生きている
はじめて見る表情だった
太陽に向かって歩く
厳しい風が吹きつけ呼吸が出来ない
ざくっざくっ
波のない海
風と足音だけ
立ち止まり見渡す
大地に上がり進化を繰り返した命
まるい星の上
たったひとつ立っていた
白く果てしない広がり
年老いた海と俺
以前会ったのは5億年昔
始まりの時はいつだったろう
目を細めると微かに太陽の輪郭が確認出来る
細く長い影が東へと伸びてゆく
彼方の山が沈黙する
太陽がそっと地平線にくちづける
年老いた海が薄桃色に染まる
蜜柑色の地平線
群青色の天空
やがて太陽の唄が終わる
闇が脈打ち
星が降り
月の祈りが始まる
いつの間にか影はひっそりと西にたたずんでいる
年老いた海がゆっくりと瞳を閉じる
白い寝息で夢を見る
過ぎ去った時間
歓喜の声
いらだちと切なさ
祝福の叫び
降り積もる歴史の涙が乾いてゆく
やわらかな光が年老いた海を包む
ぼんやりと世界が浮かび上がる
月のささやき
星々のおしゃべり
影は足元で丸くなっている
遥かな記憶が巡ってゆく
命の炎がゆれる
音も無く時の河が流れてゆく
いつしか東の空が赤く燃えている
やがて光の瞬間が訪れる
さえずる鳥が不在の朝
風は止み静寂だけがある
だんだんと青く抜けてゆく空
年老いた海が白く輝き始める
ふたつの鼓動
長い旅のほんのひととき
陽炎が大地から山を浮かび上がらせる
沈黙する青空
熱く澄んだ湧きあがりが彼方を越えて結晶する
さまよい
ただよい
立ち止まり
まどろみ
深呼吸
純化の息吹が静かに流れる大地
五角形
六角形
俺はひかりを求め銀河を彷徨う
見えない足跡がはっきりと刻まれる
終わらない旅が続いてゆく
まるい星の上で今日も生きていた
2004年10月25日 ウユニ塩湖