旅の空からの伝言


2006年8月2日 カイロより


夏祭り 宵かがり 胸の高鳴りに合わせて

8月は夢花火 わたしの心は 夏模様

8月になりました。

旅に出て3年。

暑い暑いカイロです。

熱帯夜 冷やし中華 プルコギ

扇子には「夏を喜び 暑さを楽しむ」の文字。

明日はピラミッドへ行きます。

夢は つまり 思い出のあとさき







2006年8月10日 カイロより


エジプトの南は暑かった。

暴力的に乾燥した暑さに、目の中が沸騰する錯覚を覚えました。

インドの45度とは、また違う乾いた暑さ。

ギザのピラミッドを見た後、

アブシンベル神殿、カルナック神殿、王家の谷、ハトシェプスト女王葬祭殿など、

エジプトの南にある遺跡を廻ってきました。

ああいった途方もない権力者の創造物を眼にするたび感じるのは、人間の限りない欲望。

偉大なのか。

愚かなのか。

きっと両方なのだろう。

愛と美しさと奇跡に満ちた世界を見たい。

今はカイロに戻っています。

暑さはまだ可愛い。

ビールも買える。

絞ったサトウキビをイッキ飲み。

汗を拭きながら台所で打つ。

また蚊に刺された足の裏。

ぐっと気を入れて世界を引き寄せる。

オープン・リーチ・ハイテー・ツモ・ドラドラ。

しばし麻雀とシェア飯で鋭気を養った後、西の砂漠に出かけます。








2006年8月19日 カイロより


白砂漠に行ってきました。

ここは砂漠の中に白いマッシュルームがニョキニョキと生えているような場所。

不思議な風景です。

白いニョキニョキは石灰岩。

「星の王子さま」で読んだように、砂漠にはホントにキツネがいるのですね。

夜、焚き火から離れて独り眠っていた。

砂漠の真ん中。

月のない夜空から星が降っていた。

夜半過ぎ、ブランケットを引っ張られて目が覚めた。

足元のブランケットをキツネが咥えていた。

ハーフ・ムーンが白く辺りを浮かび上がらせていた。

2匹のキツネと白い岩が月明かりに照らされて夢の中の風景のようでした。

砂漠に吹く風は驚くほど豊饒でした。

一瞬で変わる。

遠くから吹いて来て、遠くへ吹いて行った。

たくさんの物語を内包していた。

砂漠には貝殻の欠けらが落ちていた。

砂漠にはトンボが飛んでいた。

砂漠は俺の知らない井戸をまだまだたくさん隠しているようです。








2006年8月21日 カイロより


あっという間のエジプト滞在1ヶ月。

ヴィザの延長をしてきました。

そして、次なる目的地へのエア・チケットも購入しました。

旅行代理店の担当者、マリヤムさんとは同志同士。

今日は役割の話をしました。

マリヤムさんの役割は「せいさんのひ」について人々に伝えること。

「生産の火」だと思っていたら「清算の日」の事なのだそう。

俺の勘違いを大層面白がってくれました。

死を意識することにより輝く生。

限りある命だからこそ今を大切に生きる。

エア・チケットを買ったことにより動き出したこともあります。







2006年8月22日 カイロより


遠くまで見える道で 君の手を握り締めた

手渡す言葉も 何もないけど

お盆だったからでしょうか。

最近、古い友人からのメールがポツポツと届きます。

道の途中で出会い、立ち止まり、握手を交わした懐かしい人々。

時々思い出して便りをもらえる。

ありがたいことです。

元気にしてますか。

俺は元気です。

明日からリビアに近い西のオアシスへ行ってきます。







2006年8月23日 アレクサンドリアより


昨夜のこと。

蚊に刺されて目が覚めて、痒み止めを塗っていた、つもりだった。

あれ?

何か感触がいつもと少し違う。

闇に眼を凝らし見てみると、歯磨き粉を足にすり込んでいました。

かかとを白くしたままやって来ました。

アレクサンドリア。

ここはカイロから北西に約200キロ。

地中海に面したエジプト第二の都市です。

クレオパトラが住んでいたのも、この街だそうです。

海に面した高層安ホテル。

大きく弧を描く海岸線にハバナのマレコン通りを思い起こしました。

シーフードを食べ、明日は西のオアシスを目指します。







2006年8月24日 シィーワ・オアシスより


砂漠に伸びる道路を疾走。

バスがオアシスに着いたのは午後6時過ぎでした。

早速、オアシスの外へと歩き出します。

しばらく歩けば砂漠が広がっているはず。

夕陽を見るため視界の広い場所を探します。

ロバに乗った子供たちがハローハローと追い抜いてゆきます。

生い茂るナツメヤシの下を歩きます。

夕闇に向かって歩きます。

てくてくてく。

沖縄の島にいるような錯覚を覚えました。

オアシスは砂漠という大海原に浮かぶ島なのですね。

ロバは水牛車よりもスピードが出ます。

オアシスも水に囲まれていました。








2006年8月25日 シィーワ・オアシスより


朝日を見るため、5時前に起きました。

窓の外は真夜中そのもの。

少し時間を置きながら何度か外を窺いましたが、一向に夜は明けません。

ずいぶんと朝が遅くなったものです。

本当に美しいのは、太陽が姿を現すよりもかなり前の時間です。

西の空に夜を残しながら、刻々と色が変わり続けます。

夜と朝の間の静寂。

太陽はまだまだ起き出しません。

良い風が吹いてきました。

昨日干したTシャツが揺れています。

水をごくり。

太陽と入れ違いで再び眠りにつきました。

窓もドアも開けたまま起きたのは午後1時。

ひさしぶりにぐっすりと寝れた夜明けを挟んだ14時間でした。








2006年8月26日 カイロより


席は無いと言われチケットを持たず乗り込んだ列車は、気抜けするほど空いていました。

前に座った30歳前後の男に挨拶をしてカイロ着の時間を訊ねました。

笑うと顔中皺だらけになるカッコつけで涙もろい振り付け師の友人に似ていました。

彼はアショーンと名乗りました。

しばらくすると携帯電話を渡されました。

どうやら彼の母親と繋がっているようです。

「アッサラーム(こんにちは)」

何の返事も無かったので、構わずゆっくりと続けました。

「マイ・ネイム・イズ・テツ。

フロム・ジャパン。

シュクラン(ありがとう)」

アショーンは満足そうに頷いていました。

「君はジャパンなのか。マレーシアかインドネシアかと思った。ジャパンはグッドだ」

アショーンは線路と平行する道路を走る車を指差しました。

「TOYOTA、あれもジャパンだろう。ジャパン・イズ・グッド」

あまり口数の多くないアショーン。

開けっ放しの窓からの風を受けて、一緒に外を眺めているだけで楽しい気分です。

目が合うとアショーンは顔をくしゃくしゃにしてニコニコとニヤニヤの間くらいの顔で頷きます。

水田の真ん中にナツメヤシの木が立っています。

トウモロコシの穂が太陽を浴びています。

緑が輝いています。

牛が耕しています。

子供が手を振っています。

アショーンも俺も同時に振り返していました。

ゴーッ!!

列車とすれ違い、いきなり強烈な風圧がぶつかって来ます。

アショーンが両手を広げてくしゃくしゃの笑顔で頷きます。

一緒にいるだけで楽しい。

子供の頃、友達とは、そんな奴のことだったなあと思いました。

虫捕りも、花火も、野球も、祭りも、ザリガニ釣りも、一緒だから最高のイベントでした。

プールも、葉の花畑も、駄菓子屋も、水たまりも、竹やぶも、一緒だから最高の遊び場でした。

アショーンは俺の分の乗車券代を払ってくれました。

お礼をと思って頼んだ車内販売のシャイ(紅茶)も払わせてもらえませんでした。

胸に手をあててお礼を言いました。

窓に両腕と顎をもたれて子供みたいにずっと外を見ていました。

西日が闇に変わってゆきました。


遠くから届く 宇宙の光

街中で続いてく 暮らし

僕らの住む この世界では 

旅に出る理由があり

誰もみな 手を振っては しばし別れる







2006年8月27日 カイロより


オアシスにはビールが無かった。

ということで俺にとってのオアシスはカイロでした。

予定を早めて戻って来たのです。

「テツーゥ!」

街を歩くと子供たちが名前を呼んでくれる。

馴染みの酒屋 馴染みのサンドイッチ屋 馴染みのジュース屋 馴染みのネット屋


泊まっているのは世界屈指の日本人宿。

サファリ・ホテル。

築50年を越えた男子校の部室のような部屋。

俺のベッドにはハエが7匹。

汚いけれど此処は竜宮城です。

1年、2年、3年と沈没する旅行者。

麻雀、日本語ライブラリー(マンガ含む)、バックギャモン、のぶさんのトーク。

特筆すべきは、シェア飯!

カツカレー!チャーシュー麺!茄子味噌!海苔巻き!トン汁!冷やし中華!親子丼!

素晴らしい!

いつもありがとう!松本さん!

グレイト!


数日ぶりにネットにアクセスしました。

伝言板を休止したため、たくさんのメールが届いていました。

決して一方通行じゃない。

私たちからもこうしてメールで伝えることが出来る。

ありがたくて頭が下がりました。

いつも見てますと初めましてのメールをくれた方もいました。

ありがとうございます!

しばらくはこの形態でゆきたいと思います。

静かな振動&金子 鉄朗

これからもよろしくお願い致します!







2006年8月28日 カイロより


♪生きているっていうことは カッコ悪いかもしれない

♪死んでしまうということは とっても惨めなことだろう

♪だから親愛なる人よ その間に ほんの少し

♪人を愛するってことを しっかりと掴まえるんだ

アブドーさん!

24回目の誕生日おめでとう!

背中の刺繍、俺はカッコイイと思います。

これからも亜武道に励んで下さい。

サファリ・ホテル大好きです!

本日、1123日目の長い旅の途中、39歳、金子 鉄朗、テツでした!

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

サファリ・ホテルのスタッフ、アブドーの誕生日が近いということで、

プレゼントとして宿泊者それぞれのメッセージをカセット・テープに吹き込みました。

その場でふと思い浮かんだブルーハーツのチェイン・ギャングを歌ってみました。

しっかりと掴まえるべきことは、俺自身も、まだまだたくさんある。