旅の空からの伝言
2008年10月8日(水) 奈良より
起きたのは7時
眠いなあ
昨夜は一平さんとあゆちゃんと話し込んでしまった
このゲストハウスを作っていた頃の話
その作業を通じて出会ったふたり
今月22日、ふたりは結婚式を挙げる
先日、入籍した日には「今日から瀬戸でーす!」と言っていたあゆちゃん
とても良い顔をしていた
色々と話し込んで、寝たのはついさっき、朝4時だった
朝食を食べていると昨晩泊まった3組が続々と出発
普段はチェック・アウト時間の11時前後に掃除を始めるのだが
こんな日は早々に動き出す
布団カバーを付け替えて、次々と掃除機をかけてゆく
洗濯機もフル稼働
屋上に上がると気持ち良い青空が見えた
ひさしぶりに太陽と対面
物干し竿に洗濯物を広げてゆく
見渡す風景の中にも色とりどりの洗濯物が広がっている
どこからかポクポクポクと木魚を叩く音が聞こえてくる
午後は空き時間
円成寺に行くことにする
目的は大日如来像
東大寺大仏殿を横目で見ながら柳生へと向かう街道を走る
繰り返す田園と峠道を抜けてバイクを止める
ふわーっと甘い金木犀の香りに包まれた
苑池を中心に浄土遊舟式の庭園が広がり、その向こうに楼門が見える
まずは本堂に行こうと思いながら門をくぐる
なぜか右手に見えた多宝塔に吸い寄せられるように足が向いた
ああ ここにいらっしゃった
大日如来さん
左手の人さし指を右手で握った印
みずみずしい生命感
この仏像は運慶のデビュー作と言われている
後に天才仏師と言われた運慶20歳前半の作品だ
台座には「大仏師康慶 実弟子運慶」と直筆で記されている
当時は最高の棟梁ですら仏像に名を残すことは憚られた時代
若き運慶の署名は、この仏像を自身の第1歩とする決意の証なのだろう
「はじめまして」
おばさんが拝みながら声をかけていた
峠道でハーレーを煽りながら宿に戻る
夕飯のメインはゴーヤーチャンプル
豚バラ、豆腐、卵、ニンジンを一緒に炒めたボリュームの一品
苦味が苦手な琢磨くんの為にゴーヤーを長めに水にさらす
美味しく作るポイントはゴーヤーを同じ厚さに切ること
炒める際に均等に火が通るからだ
豆腐はギリギリまで水気を切って炒める
最近は浅漬けを作り続けている
単に塩でキャベツを揉むだけから始めたのだが、日々改良を重ねている
今日はキャベツだけでなくキュウリとニンジンも使った
味付けは、塩+カツオ節+昆布+白だし+一味唐辛子
続けて作ることによって匙加減が分かるようになってきた
手順も心得てきて段々と短時間で作れるようになってきた
美味しかった!
ご馳走様!
22時を待って道に出した看板を入れる
金庫の売り上げを計算して、エクセルに入力する
藤田さんが遊びに来た
巨人が勝ったとホロ酔い気味で泡盛持参
柿の葉寿司をお土産に宿泊客にも振る舞う
「さて計算も終わったことだし、泡盛でも飲むかな」
一平さんの目を見ながら言ってみる
「あ、良いですよ」
業務終了時間までは、まだ30分ほどあるがオーナーの許しが出た
さあ、飲むぞ!
ナンバーリングまでされた限定の古酒である
美味いなあ、泡盛!
ロシアを旅行した藤田さんの話を聞く
人間の幸せという根源的な方向へ話は向かう
家族みんなが充分に御飯を食べられる
それだけで充分に幸せなことではないか
それが神様が与えてくれた幸せの大きさなのではないか
他の生き物を見てもそれで充分に満足している
人間だけがそれ以上を求めるあまり、
大切なものを見失ってしまったのではないか
寝不足なので早く休もうと思っていたのだが話は盛り上がる
布団に入ると2時近かった
ロビーではニュージーランドから来た若い夫婦が、焼酎を飲みながら話し込んでいる
囁くような声が耳に届く
それぞれの人生を垣間見せながら俺たちは繋がっている
2008年10月9日(木) 奈良より
今日は琢磨くんが休日
一平さんが夜番に入り、俺は昼番
いつも通りに仕事を片付ける
比較的落ち着いた日
連休を控えた嵐の前の静けさ
この数日で秋がぐんと深まった
夏の欠片はもう見当たらない
さあ今日の夕飯は何にしよう
サンマ!
サンマが食べたい!
先日、焼いてから既に3度目
スリー・タイムス・イン・ナ・ウィーク
サンマがこんなに美味いとは・・・
こんな美味いサンマ食べたことが無かったです・・・
サンマ賛美の声が次々と上がる
美味いだけじゃなく安いサンマ、この時期は食べるしかない!
ロースターを使えば簡単に美味しく焼けるのだ
木村魚屋を覗いてみるが、時既に遅く売り切れ
サンマ・ラヴァーズの声に後押しされ東向商店街の魚屋へ向かう
うーん
見たことないくらい美味そうなのがあったのだが1尾310円
予算オーバーだ
ああ、あんな高級サンマを食べられる身分になってみたい
夕暮れ
もちいどの通り
いつものスーパー
3尾290円で手を打つ
ダイコンも購入
夜は遅くまで焼酎片手に語ってしまった
「話したら長くなるけど・・・」
旅に出た理由を聞かれた
いくつもの理由が絡んで積み重なってのことだ
必然的に長い話になるし人生を語ることにもなる
普段ならショート・ヴァージョンでお茶を濁す
一平さん、あゆちゃん、琢磨くん
今夜はたっぷり語らせていただきました
講演会をやりましょうよ
情熱大陸に出ましょうよ
優しい響き
大きな感情
いつもはざ間にいる
人生は過程そのものだ
過程だけが人生であり、旅は過程の繰り返し
そこには尽きない憧れがある
2008年10月10日(金) 奈良より
本日は燃えるゴミの日
午前6時
起き抜けでゴミ袋を持ってゴミ出し場へ
ああ・・・今日もやられた・・
ゴミ袋が既にひとつ、置いてある
1番最初に出したいと思うのだが、いつも2番目だ
朝の空気を深呼吸
さあ1日が始まる
味噌汁
幸せを感じる一杯
初めは出汁の入った味噌にお湯を注いだだけだった
ある時、お湯を入れ過ぎて薄くなってしまった
応急処置として冷蔵庫にあった味噌を足した
いかにも田舎味噌といった風情の麹味噌
この組み合わせが抜群に美味かった
それ以来定番となったあわせ味噌で作る朝の一杯
今日の具はネギと豆腐とエノキ
朝食が終わる頃には道の対面にゴミ袋がズラッと並ぶ
それぞれの家の前にゴミが出されるのだ
ゲストハウスの前の道を挟んで別の町内になるのだそうだ
こちらの町内とは出し方が違う
道の片側だけズラッとゴミ袋が並ぶ光景が生まれる
連休前の金曜日
チェック・インは午後3時からなのだが、それ以前でも荷物を預かっている
午前中から続々とお客さんが訪れる
荷物をストックするスペースもいっぱいだ
午後からは空き時間なので奈良国立博物館に行く
学生料金で入れた
疲れが溜まっているのだろうか
阿弥陀如来像と観音菩薩像の間に座って小1時間昼寝
宿に戻るとチェック・イン・ラッシュ
トヨイズミさんは画家、天川神社からやって来た
アメリカ人のデビッドは宿泊カードに漢字で記入した
行き先には「帰る」と書かれていた
ロンドンからの若者、アレックス
奈良は二度目、ソウルからのソウ君
無職放浪中の小笠原くん
パリから来たカップル、アレクサンドラ
それから、それから・・・
22時を過ぎて到着した本日最後の石塚さん
看板を入れて焼酎
おやすみなさい
2008年10月11日(土) 奈良より
ウガヤゲストハウスでは一匹のメダカを飼っている
名前はまだない
ということで命名させてもらった
「ゴジラ」
咄嗟の思い付きだったのだが悪くない
「ゴジラにエサやった?」
それを聞いたお客さんはどんな反応を示すだろうか
今日はなかなか良い買い物が出来た
まずは初めて山口豆腐屋で買うことが出来た
木綿豆腐
鍋を持って買いに行く昔ながらの豆腐屋
近所の路地にある
お昼12時の開店とともに列が出来てすぐに売切れてしまう
嬉しい
次は厚揚げを買おう
「お一人様3ケまで」と張り紙にあったので気になる
「いらっしゃい!まいど!」
いつもの木村魚屋では鮭
油がのって身も太い美味そうなカマの部分
醤油に漬けてから焼こう
そしてウガヤゲストハウスの台所、
もちいどの通りのスーパー、オーケスト
長ネギが4本100円で買えた
ラッキー
カワグチくん、トヨイズミさん、デビッド、
ソウ君、アレクサンドラ達がチェック・アウト
「いってらっきょー!」と俺は送り出す
新しいお客さんも続々とやって来た
忙しいが賑やかで楽しい夜
2008年10月12日(日) 奈良より
ゲストハウスに住み込んでの生活
挨拶を交わす近所の人も増えた
左二軒隣りに住むおじさんの姿が見える
「おはよーございます!いつもありがとうございます!」
ロビーから大きく声をかける
おじさんは毎朝この辺り一体を掃いてくれているのだ
ありがたい
午後は昼寝
東大寺は鹿の角切り
夕飯はコロッケ
心のBGMはつじあやの
シャララ
今日はアレックスと白倉さん、山田くんがチェック・アウト
チェック・インは新潟からのトモ、アメリカからのテッド&グレッグ
愛子、岩田さん、ヤマジくん、小笠原くんが連泊
連泊者が多いと比較的仕事が楽だ
着いたばかりのお客さんには何かと説明することが多い
玄関の閉まる時間
喫煙場所
美味しいコーヒー飲めますよ
質問を受けることも多い
ゴミは何処に捨てたら良いですか?
シャワーのお湯が出ないんですけど・・・
法隆寺にはどうやって行けば良いですか?
特に外国人からは質問も多く対応には時間もかかる
場所の説明は地図を広げて記入しながら英語で答える
質問の内容もハードルが高い
銭湯の値段からコインランドリーの営業時間
日曜でも使えるATM
美味い寿司屋
ベジタリアンの食事を出す店
壊れたキャスターを直せる店
刀を買える店
広島をどう思う?
禅とは?
神社と寺の違いは?
着物と浴衣の違いは?
「おはよう」には「ございます」を付けるが、「こんばんは」にはどうして付けないのか?
今日着いたテッドとグレッグは早々に夜の町に繰り出した
ロビーでは日本語の花が咲いている
トモがギターを爪弾く
60歳の岩田さんもビールを飲み楽しそうに話に交ざる
マイちゃんは看板を書いている
一平さんは「いいねー!いいねー!」と怪しいカメラマンのようなコメント
先週も来てくれたヤマジくんは琢磨くんとパソコンについて話し込んでいる
宿は生き物のようだ
空気が毎日変わる
泊まる人によって毎日変わる
いろいろな夜があるものだ
いろいろな夜を越え、いろいろな旅があるものだ
2008年10月13日(月) 奈良より
ウガヤゲストハウスには座敷童子がいる
座敷童子は甘い物が好きだ
ということでスタッフ皆でセッセと甘い物を食べている
先日は一平さん地元の名産、ゆずあん最中を食べた
実は座敷童子は甘いものでも洋菓子の方をより好む
和菓子にはもう飽きてしまっているらしい
座敷童子はゲストハウスの運営も応援してくれている
今朝は7時半に愛子がチェック・アウト
出発前、エントランスでの立ち話中
開け放していた動くはずの無いドアがぐぐぐっと動いた
まるで出発を阻むように見えた
初めは1泊の予定だったが3泊してくれた愛子
「もう一晩」と座敷童子に引き止められた
連休最後の今日は7人がイッキにアウト
迎えたのはオランダ人カップルのデニス
「ダンク・ウェル!」
表の看板を見てやって来た飛び込みの韓国人キムくん
「キムチ・モコッシタ!」
連休も終了、穏やかな一日
ニワナラナカッタ
午前中の掃除・洗濯終了後、そのままプリント大会に突入した
ウガヤゲストハウスのオリジナルTシャツ
表裏両面のプリント、これは全てスタッフによる手刷り作業だ
やってみるまでこんな大変だとは思わなかった
まずは原版になるシルクスクリーンの制作
Tシャツにプラスチックの板を挟み込む
シルクスクリーンを当てインクをヘラで擦り付ける
ドライヤーで乾かし、更にアイロンを当てる
何枚か刷るとシルクスクリーンにインクが詰まるので時々水洗いをする
とにかく人手と時間がかかる仕事だ
床一面にTシャツが並んでゆく
ロビーは足の踏み場もない
気が付くと夕暮れ
単純作業なのだが休憩も取らずに続けたので疲れ果てた
食事を挟んで作業は続く
何を食べたのかも良く憶えていない
俺の勤務時間は18時で終了なのだが抜けるに抜けられない状況だ
あー疲れた
22時になる
横になりたいぞー
ふとんふとんふとんふとん
2008年10月14日(火) 奈良より
布団から出て直ぐに一枚余分に羽織る
朝晩は随分と冷え込むようになった
空高く、秋が深まる
ダイコンとネギとワカメの味噌汁
今日は毎日新聞の取材だ
「明日、取材ね、11時」
昨夜念の為一平さんに声をかけた
「あーそうでした。全く忘れていた」
案の定だ
代わりに俺が取材を受けてしまっても良かったな
「もう取材終わったから」
朝出てきた一平さんに掃除が終わったかのごとく告げても面白かった
昨夜宿泊の3人は早々にチェック・アウト
取材に備え前倒しで客室の掃除を済ませる
ロビー廻りを整え、直ぐにコーヒーが入れられる準備
白檀のお香を焚き、BGMをセット
毎日新聞の記者は花澤さん
入社間もない奈良勤務3年目、寺社担当
一番に名刺を渡された
ここにいると俺は頻繁にオーナーに間違えられる
取材は良い雰囲気で進む
一平さんの経歴が語られる
以前は楽器メーカーの営業
30歳前にして退社、法律の勉強を始める
勉強を中断、四国をお遍路
その途中でゲストハウスの存在を知る
面白そうだと感じ日本各地のゲストハウスを泊まり歩く
ゲストハウス・オープンを決意、奈良で物件を探し始める
2008年1月契約、2月改装開始、4月5日ウガヤゲストハウス・オープン
奈良初のゲストハウス誕生だ
ゲストハウスのオーナーには世界中を旅した人が多い
ところが一平さんには一見旅人然とした所がない
でも付き合ってみると分かる
未知のことに恐れず飛び込む
起きたことを受け入れて流れに任せて生きる
自分の欲望に忠実
そんな所は旅人の資質そのものだ
ゲストハウスとは
お客さんの傾向
ベッド数など客観的なデータ
自家焙煎で淹れる自慢のコーヒー
和やかな雰囲気の中、様々な角度から取材は行われる
お客さんが全員チェック・アウトしていたので
スタッフ全員がロビーに座り、撮影が行われた
またまた新聞に載ってしまうな
なかなか良い取材だった
今日は500人目のお客さんがやって来た記念すべき日でもあった
午後からは通常通り時間が流れた
Tシャツのプリントも引き続きやった
夕飯の一品は松山千春のジャガイモ
あゆちゃんが仲居として働くウルトラ高級旅館
そこの女将さんが松山千春の知り合いらしい
「和田アキコには2箱あげて、私には1箱だけかいな」
ということで追加で送られてきたジャガイモのお裾分けらしい
シンプルに茹でてバター
22時に寝る