旅の空からの伝言
2008年10月15日(水) 奈良より
5時起床
う〜ん、目覚めが良い
体が軽い、頭も働く
昨夜は22時に寝た
早寝早起きは調子が良い
「アッサラーム・アレイコム!」
ムスリム流の挨拶をポールと交わす
彼は長身のフランス人
国籍はフランスなのだが、両親はアルジェリアとモロッコなのだそうだ
さてさて
引き続き、朝食の準備だ
ここにやって来た当初は事前に献立を考えて料理をしていた
最近は朝食くらいは冷蔵庫にあるもので作ってしまう
卵が目に付く
卵焼きに初挑戦
和風だしと酒を入れて焼いてみた
なんだ簡単じゃないか
見る前に飛べ
トライトライトライ
ソウガ(創我)くんが階段を降りてきて俺の前に座った
彼はあゆちゃんの幼なじみで札幌から泊まりに来た
お笑い芸人を目指している
俺の目を見て真っすぐに言う
「世界中を旅したり、写真展やったり、
レコード会社のプロデューサーやったりと聞きました・・・」
そうだなあ
俺、やりたいことは片っ端からやったよ
今は明太子喰いたいとか
餃子喰いたいとか
泳ぎたいとか
ストーンズ聞きたいとか
そんな感じ
今朝は初めて玉子焼きを焼いてみたけど美味しく出来た
いやー幸せだなあ
ソウガくんが笑った
肩の力が抜けたのが分かった
ベッドルーム、掃除!
トイレ、掃除!
シャワールーム、掃除!
午後の空き時間を使って遠出したいので仕事はサクサク済ませたい
しかし11時を過ぎても琢磨くんが起きて来ない
朝食後、二度寝することは良くあるのだが大体10時頃には起き出してくる
声をかける
「なんだか寒いんです」とハッキリしない返事
だいじょうぶかよ
早く言ってくれれば良かったのに・・・
ロビー、掃除!
布団カバーを外す!
洗濯機を廻す×3!
屋上に行って洗濯物を干す!
台所に積まれた食器を洗う!
さあ出発!
今日は明日香村まで行く
道草屋の片桐くんと華奈ちゃんが食堂を造っている
そんな情報をブログで見かけたのでイキナリ訪ねて驚かす
きっと俺が奈良にいることも知らないだろう
ジェット(スーパーカブ、新聞配達のバイク)に跨り大和路を南へ2時間ほど走る
彼らがオープンしようとしている「はっぱ食堂」
以下、チラシからに引用
ならの野菜直売所のかたすみに
ゆらゆらゆれる
はっぱのような人々が集まって
小さなカフェが始まります
ここは、はっぱ食堂
はっぱびとが毎日、かわりばんこで作る体にやさしいたべもの
ごはんやパン、甘いもの
イノチのつながり、いただきます
しっかりよくかんで ゆっくり味わってください
手作り雑貨もナラベテいます
以上、引用終わり
残念、会えなかった
今日はこちらでの作業ではなく、神戸まで家具を貰いに行っているらしい
直売所の人と話をして手紙を置いてきた
明日香村を走る
のどかな道
天武・持統天皇陵
天香具山
畝傍山
耳成山
ひかりに溢れた里山の風景
丘に腰掛け万葉の時代に思いを馳せる
さあ帰ろう
夕飯の買い物を済ませて、まずは洗濯物の取り込みだ
ここでショッキングな依頼
食事を5人分用意して欲しいとのこと
なんだとー
もっと早く言えー
買い物だって済ませてるのに
材料が足りないばかりか5人前なんて作ったことがない
人数が増えたら、それだけで味を作るのが難しくなる
作り慣れてる人だったら何でもないのかもしれないが、こちらは毎回必死なんだ
でもやるしかないのだろう
味噌汁は何とかなりそう
漬物はホンの少しずつになってしまうなあ
オニオン・スライスでもう一品増やそうか
予定していたメインは豚肉とエリンギ&シメジをオイスターソースで炒める
何か野菜を足して量を増やさないと
ちゃんと味が作れるだろうか
フライパンだって振れないじゃんか
5人分って皿に盛り付けるだけで大変
皿を置くスペースもない
あー疲れた
くたくた
洗い物はお願い致します
屋上に上がる
まるい月がきれい
2008年10月16日(木) 奈良より
星と共に生きる
太陽と共に生きる
6時に起きてそのまま朝食の準備
自分の分だけを簡単に作る
今日は10日振りの休日
神野山に登る
そうだおにぎり持っていこう
昨日の玉子焼きに続いて人生初おにぎり
手のひらを軽く濡らして塩で結ぶ
昆布の佃煮を中に入れる
出来た!
7時30分、寝静まったままのゲストハウスを後にする
今朝は冷え込んだ
バイクのシートも朝露でびっしょり濡れている
徐々にエンジンを温めながら峠道に入る
ウインドブレーカーにオーバーパンツ
着込んできたが震え上がるほど寒い
上着をもう一枚、手袋も欲しい
スピードを上げると寒いのでゆっくり安全運転
銀色に輝くススキの穂
清潔な緑のラインが並ぶ茶畑
小さな集落を抜けるたび、神野山に近づいてゆく
伊賀と柳生に挟まれた奈良の東
なだらかなスロープを持つ円錐形、標高618m、神の山
山に入ると空気が一変した
それほど高い山ではないのに影が深い
なんという清清しさだろう
振り返ると一面の雲海
しばらく山道を走り、なべくら渓に着いた
おおお!
すごい!
まさに奇景
黒い巨石がごろごろ
山頂に向かって巨石の帯が続いている
その幅20mほど、石の流れが山頂に向かって600mほど続いている
なべくら渓を含めた神野山の巨石群
これらは天体を地上に写し取った遺跡ではないかと言われている
山頂にある王塚は白鳥座のデネブ
八畳岩は琴座のベガ(織り姫)
天狗岩は鷲座のアルタイル(ひこ星)
これら夏の大三角形を横切って天の川である石の帯がある
夜空に現れる天の川
漆黒の闇に浮かぶ星
それらは古代の人々にとって神々しく
畏れ慄く神そのものであったのではないか
1年に1度、夏のある日
天上の星と地上の星が一致する
その時、天上の神が地上に降臨する
神の山は豊かな生活を願う人々の祈りの場になる
壮大なロマン
多くの謎に包まれた神の山
太陽と共に生きる
星と共に生きる
分からないことは分からないままで良い
2008年10月17日(金) 奈良より
大根が安くなってきた
サンマを焼いて、たっぷりの大根おろし
幸せだなあ
サンマの塩焼きはピアノの弾き語り
素晴らしい歌に余計なアレンジはいらない
さあ
金曜日
今日もウガヤで働きます
ゲストハウスは半共同生活だ
個人に与えられるスペースは基本的にベッドひとつ
ドミトリーと言われる相部屋形式
トイレや洗面所、シャワールームは共同
その代わりにパブリック・スペースが充実している
ゆったり使えるロビーがあり各々寛いでもらえる
インターネットが無料で使え、ガイド・ブックや雑誌が閲覧できる
冷蔵庫、トースター、レンジなども自由に使える
それぞれが気持ち良い滞在をするためにはマナーや気遣いが必要になる
ドアの閉め方、足音、点けた電気を消さない
自分では気づかない生活の癖は誰にでもある
個人的に気になっているのはお湯の沸かし方
ほとんどの人がお茶を一杯飲むだけなのにヤカンいっぱいに沸かす
電気も時間も水さえも無駄だ
聞く耳を持ってくれそうな人には話をする
電気を使えない人が世界にはどれだけいるか
水を汲むために何キロも歩く人が世界にはどれだけいるか
BGMは竹のガムラン
黒胡椒煎餅が止まらない
買い物は山口豆腐屋
12時オープンに合わせて向かったが既に12人が路地に並んでいる
厚揚げゲット!
その頃には更に15人を越える列が出来ていた
いつもの木村魚屋ではスルメイカ
今日は人生初塩辛にチャレンジ
ジーンズに墨を付けながら仕込終了
法隆寺から戻って来た鉄平くんと話す
先日、一平さんとあゆちゃんと話していた事を告げる
あゆちゃんの名前は「鮎美」
あゆちゃんと結婚目前の一平さん
一平さんのお母さんの名前は「鮎子」というのだそうだ
他人だった「鮎美」と「鮎子」が親子になる
お互いが珍しい字を使っているだけあって興味深い偶然だ
「だったら子供は鮎平にするしかない!」と主張する俺
「いやーそれは・・・金子さんの鉄を貰って鉄平なんて良いなあ」と一平さん
そんな話をしていた直後に「鉄平」というお客さんが来たのだ
そのことを話すと鉄平くんは言った
「僕の親父の名前は一平です」
本日は鉄平くんの他に4人がチェック・アウト
3泊してくれたアフリカ系フランス人、ポールは高野山へ
その後、徳島へ渡って農業をやるのだそうだ
カナダから来たダンディなジョンは京都へ
日本の文化にも興味を持ち、浴衣を着て穏やかに過ごしていた
仙台からの若い加賀夫妻は西に向かって沖縄まで行く
「一緒にお願いします」ということで宿の前で写真に収まった
連泊の今日子がロビーで餃子の王将を食べている
昨日はトコロテンだった
しぶいなあ
「食べきれないので良かったら食べて下さい」
エッ!良いの!ヤッター!
しかも、ふたつある
「琢磨くーん!今日子に餃子もらったぞー!」
嬉しいなあ
「はいっ!たっくん、あーんしてー」
ビールも飲みたくなってきた
最近はビールよりも焼酎を飲むことが多かった
秋が深まる
バイクで走るのには寒い
今日子の皮パン良いなあ
温かくしてグッナイ
2008年10月18日(土) 奈良より
今日子がブロロロロとチェック・アウト
オレンジのチョッパー、ドラッグ・スター
このでかいバイクで本州をぐるっと廻って福岡まで
昨日作った塩辛は大成功だった
今朝も食べた
塩が馴染んで、まるい味になって更に美味しかった
昨夜のうちに塩を足して味噌を少し加えたのが正解だった
また作ろう
今日は昼番
友人からのメールには「Tシャツのモデルはテツさんじゃ・・・」
ああ、もうウガヤのサイトにアップされたのか
先日、オリジナルTシャツのプリントがやっと終了した
ブラウン、グリーン、グレーとロングスリーブの4種類
それぞれ4サイズ
4日間の作業で約150枚が刷り終わった
胸にはオリジナル・キャラクターのミロクちゃん
モチーフは中宮寺の弥勒菩薩像
背中には「UGAYA
GUEST
HOUSE」の文字と五重の塔
と思いきや実は四重の塔であったりする
実際にTシャツを着てサイト用のモデルになった
世界地図の前に立ち、一平さんがシャッターを切る
ヒゲが邪魔だろうと顎を上げていたのだが、
バッチリ写りこんでいてどうも中途半端
見る人が見ればモデルが俺だと分かる写真になっていた
一枚1500円です
よろしくお願い致します
この数日、一平さんの体調が悪い
宿にはやって来たものの青白い顔で目の下にベアー
コーヒー豆だけ煎って帰っていった
ウガヤ・コーヒーは、こだわりの一杯だ
無農薬・有機栽培の豆をブラジルとエクアドルからフェア・トレード
3日に1度はオーナー自らが自家焙煎
酸素を含んで深く膨らんだコーヒー豆
水は備長炭を浸してひと晩
それをキュンキュンに沸かして86度になってからドリップ開始
ゆっくり
やさしく
美味しくなれと呪文を唱える
コーヒーはクラシック音楽
楽曲とコンダクターと楽団等等の無限なる組み合わせ
いくつもの要素がパズルのように組み合わさってオンリーワンの一杯が生まれる
豆の種類、煎り方、水、ヤカンの材質、温度、ドリップの時間、方法、淹れる人
同じ豆を同じように淹れてもドロップする人によって味は全く違ってくる
あゆちゃんが淹れると豆の甘さが出る
琢磨くんが淹れると豆の苦味が出る
あゆスイート&たくまビター
経験値から一平さんのアベレージは高い
夕方からまいちゃんがカフェ用の看板を書きに来てくれた
陽気な彼女がいると宿全体が明るくなる
土産の西の京だんごも美味い
座敷童子、喜ぶ
向かいの家のレオンくんが三輪車でカッ飛ぶ
今夜の泊まりはニースから香港経由で来たフランス人カップル
原始林を歩きたいイハラさん
ウガヤ2度目のイイズカさん
普段は俺が寝ている和室にはコハマさん家族が入った
鹿児島から大阪に転勤してきた俺と同い年くらいの夫婦
小学生の娘さんを連れてきている
夕飯を食べて夜の散歩
三条通りを東へ上がる
猿沢池、興福寺、五重塔
「危ない!」
公園の暗闇にいた鹿が俺の気配に驚いた
車がびゅんびゅん走る道路に飛び出した
急ブレーキ!
完全に轢かれたと思った
車に接触しながら間一髪で渡りきった
あー良かった
心臓がドキドキしている
鹿を撥ねた車には20万円の罰金が科せられるそうだ
低いビートと鋭いギター
建物に反射して様々は方向から聞こえてくる
小さな音は段々と大きくなる
今夜は東大寺大仏殿にて布袋寅泰のライブが行われている
国立博物館、氷室神社、南大門
運慶作の金剛力士像が闇に浮かび上がる
オン・ザ・ウイング
イン・ブロークン・ハート
赤いサーチ・ライトに照らされる大仏殿
二月堂に上がり奈良の都を見下ろす
良い夜だなあ
若草山から月が顔を出した
生命には翼がある
もう一度、飛ぶのさ
2008年10月19日(日) 奈良より
留守電を解除
パソコンを立ち上げメールのチェック
予約希望のメールが入っている
ベッドの空き状況を確かめ「ご予約承りました」の返信
今日は琢磨くんが休日
昨夜23時の業務終了と共に外出した
彼は土曜の夜の天使
走り出したら止まらない自動車愛好会
一平さんは体調を崩している
シフトに入る予定だが出てくるのは無理だろう
ということで今日は終日ひとりで宿をきりもり
朝から電話が立て続けに鳴った
予約の電話を2本取った後の3本目
「あのーそちらで金子さんという方が働いていますか?」
聞いたことのある声
おー竜也かあ
オレオレ
ユキと一緒に遊びに来てくれるとのこと
嬉しいなあ
来んさい、来んさい、ウガヤに来んさい
午前中に7人がチェック・アウト
早速、シーツを洗濯
ガーッ・ガーッ・ガーッと洗濯機大回転
洗い終わるたび事務所に鍵を掛け屋上へ
ジーンズのポケットには電話の子機
じっと宿にいるのが惜しいような良い天気
お昼は鮭の塩焼き
自分が食べるだけなので気が楽だ
2時過ぎに竜也とユキが訪ねてきた
ふたりとは中国の成都で会った
ユキは相変わらず
竜也は痩せたなあ
ソファーに掛けてもらい平和な午後
旅の話とドーナツとトム・ウエイツ
ゆったり
ゆっくり
穏やかな時間が流れた
2時間ほど話していたのだが、その間来客無し、電話無し
ずいぶんと暇な仕事だと思われただろうな
さあ夕飯はどうしよう
冷蔵庫には長ネギとカボチャ
宿には自分しかいないので買い物に出られない
缶詰でも開けようか
マリサ&エリオットがチェック・イン
オーストラリアのケアンズに住む二人は広島から移動してきた
「泊まれますか?」
遅い時間になって飛び込みで大山くんがチェック・イン
彼は宗谷岬から自転車で走って来た
金庫を締めて看板を入れる
23時
玄関を閉じる時間になっても琢磨くんが戻らない
一平さんからも連絡が無かったな
完全に24時間ひとりだった
焼酎をなめる
0時を廻って布団に入る
ゴソゴソゴソ
琢磨くんが戻ってきた物音を確認して眠りに落ちた