旅の空からの伝言


2008年10月20日(月) 奈良より


シャワーを浴びて廊下に出たら目が合った

「おひさしぶりです!」

あーやっぱり!

彼が西ヤンだ

5月にお客としてウガヤに泊まった時、一番印象に残っていた男

「ひゃっ!ひゃっ!ひゃっ!」

大阪芸人のノリでしゃべっては自ら笑い声をあげる

ウガヤで働き初めて20日になるが、未だあの彼を見かけていなかった

今夜は一平さんがやっていたバンドのギター&ボーカルの西ヤンが来るということで

それがあの時の彼なんじゃないかと目星を付けていた

やはり

あの声、あのテンション

一平さんの体調が優れないと知ると

「マリッジ・ブルーちゃうの?ひゃっ!ひゃっ!ひゃっ!」

今夜は賑やかだ

恋するヒロイン小麦粉アレルギーのアキちゃん

南果さんは美味しいロール・ケーキを持って来てくれた

開帳される秘仏の話

円空の彫った仏像の話

宗谷岬から自転車で走ってきた大山くんも話に混ざる

琢磨くんも起き出してきた

バンドのベース、現在、狂い咲きおしゃまんべの堤くんもいる

欠けているのは、この宿の主、一平さん

あゆちゃん曰く、病院に行ってから多少調子が戻ってきたとのこと

今日は「プリンが食べたい」と大仏プリンを食べたそうだ

学校を休んだ小学生みたいだなあ

明後日は結婚式ですよ







2008年10月21日(火) 奈良より


エノキ、68円

チンゲン菜2束、88円

ナス3本、98円

長ネギ4本、98円

安く買える食材を中心にメニューを組み立てる

キムチ500g、288円

豚こま(国内産)100g、88円

ニラ、ネギ、エノキと炒めて今日は豚キムチだ

明日は大根1本98円

明後日はホウレン草98円、コロッケ1個30円

「岳」という漫画が面白い

ロビーにあったのをパラパラやったら止まらなくなった

大山くんにレコメンド

「これ読み終わるまで出れませんよ」

思惑通り大山連泊ゲット

「チャリダーは体力勝負だから。まあ、ゆっくりしていきなよ」

ソファーにふたり並んで「岳」を読む

三歩が露天風呂で歌っている鼻唄がYOLE YOLEなのを発見して密かに興奮した

今日の出来事回想

初のゴミ出し一番!イエイ!

眼鏡を直す!世界が明るい!

一平さんの師匠ユキオさんが大分からやって来た

一平さんのお母さん鮎子さんが和歌山からやって来た

間所さんが会いに来てくれた

レコーディングの打ち合わせで奈良に来ていたのだそうだ

嬉しいなあ

何年ぶりの再会だろう

間所さんとは、俺がレコード会社に勤めていた20代の頃からのつきあい

大阪のディープ・サウスでディープなレコーディングをしていた

お互いに歳をとった

出会った頃はすごい大人だと思っていたが、

当時の間所さんを遥かに越えた年齢に自分がなっている

そしてお互いが時を越えて変わらない

「金子さんのような自由な生き方にも憧れるんですが・・・」

そう前置きをしながら近況を話してくれた

レーベルCURRENTは10年続き19作品をリリース

自身もGATE IN THE AIRとして2枚のアルバムを出している

間所さんのメインであるFUKUDA STUDIOは創業20年を迎え大リニューアル

この御時世にとの声を物ともせず先月オープンした

時代に逆行するかのようなアナログを中心にした録音機材

ローカルの立場から本物の音を追求し続ける姿勢は出会った頃から変わらない

「何が自分らしいかを選んだらこうなりました」

素晴らしい!間所さん!

夜は大山くんと琢磨くんワインを開ける

恋する仏像好きアキちゃんもやって来た

ホンの一杯のつもりがすぐに3本

まだまだいける

アホなことばかり言ってた大山君からこぼれた言葉

「僕が旅から学んだのは感謝と素直です」







2008年10月22日(水) 奈良より


おっと

いけない、いけない

月に一度の資源ゴミを出したイキオイか

いつもの癖でウガヤの看板まで出してしまった

今日は一平さんとあゆちゃんの結婚式

ウガヤゲストハウスは臨時休業だ

夕方からは親族の方々が此処に集まる

まずは親族お披露目用の掃除

お客さんはスムーズにチェックアウト

ガブリエルとロペスは姫路を経由して広島まで

大山くんは日本縦断自転車の旅を再開、西へ向かう

俺は夕方までの時間を利用して興福寺へ

まずは白鳳彫刻を代表する仏頭

もともとは飛鳥山田寺講堂の御本尊だったものだ

ふっくらとしたお顔はすがすがしく、大らかな時代を感じる

中央に立つ堂々とした存在は5メートルもの千手観音菩薩さん

目の前に憤怒の形相で立ちはだかるのは金剛力士像

盛り上がった筋肉は騒乱の鎌倉時代を生き抜く武士の理想

駆け寄った阿修羅

やっと会えた

なんとも言えない表情に時を忘れた

やはり実物を見るに限る

阿修羅という謎に包まれた神

「非(a)天(sura)」

「生命(asu)を与える(ra)者」

解釈によっては全く性質が異なる

天燈鬼・龍燈鬼は思っていたよりも大きく感じた

普段は四天王に踏みつけられてる彼ら

阿と吽、赤と青、動と静の鮮やかなコントラスト

個人的にはユーモラスな上目使いの龍燈鬼が好き

大神神社で式を終えた二人がウガヤに戻ってきた

おかえり!

あゆちゃんは赤い着物にオレンジの帯

一平さんの紋付き袴は似合いすぎ

いつも通りのふたりというのが良いね!

おめでとう!







2008年10月23日(木) 奈良より


あめつち  に  われ ひとり ゐて

たつ ごとき  この さびしさ を

きみ は ほほゑむ

曾津 八一

筒井の駅を過ぎる頃に雨が落ちだした

法隆寺はもうすぐだ

昨日から夢殿の厨子が開いた

聖徳太子の供養を意味する八角の御影堂

待ちに待った救世観音

金網に顔を付けて薄暗い御堂を覗く

眼が闇に慣れてくるにつれて浮かび上がってくる

厳しさを感じる祈りの姿

太子の写し身であり等身大と言われる一木造り

誰の眼にも触れることのなかった秘仏

明治17年、フェノロサが1000年の時を解いた

ああ、実際に対面しているんだ

雨が激しくなる

土砂降りに変わる

礼堂の軒下に腰掛けて雨に打たれる夢殿を眺める

時を越える祈り

慈悲

救世観音

夢殿の頂上には舎利瓶という宝珠

太子の祈りに御霊が宿り、宝珠を通して世界中に放たれる

「新聞、載ってはったなあ」

今朝方、近所のおばちゃんが早速訪ねてきた

先日行われた毎日新聞の取材が記事になった

「見たでー!がんばってやー!」

声をかけて通り過ぎるおじさんもいる

「この写真、誰が見ても金子さんがオーナーだよ」と一平さん

夕食はユキオさんの団子汁&高菜チャーハン

世界はひとつじゃない







2008年10月23日(木) 毎日新聞(奈良版)より


ウガヤゲストハウス

奈良の魅力知る拠点に 開業半年、世界各国500人利用

◇素泊まり3000円以下、カフェも営業−

素泊まり1泊3000円以下の低価格で宿泊できる県内でも珍しい宿泊施設

「奈良ウガヤゲストハウス」(奈良市奥子守町)が、今年4月のオープンから半年を迎えた。

世界各国から訪れた利用客の数も500人を超え、今月からカフェの営業も始めた。

オーナーの瀬戸一平さん(33)は

「奈良の魅力を一人でも多くの人に知ってもらうための一つの拠点になっていけたらうれしい」と意気込んでいる。

ゲストハウスは低料金で長期的に宿泊できる旅行者向けの宿で、沖縄県や京都府に多くある。

和歌山市出身の瀬戸さんは昨年4月に四国八十八カ所を巡る旅をした際、

行く先々の宿で多くの人と出会えたことに感動しゲストハウスを経営することを決めた。

沖縄で2カ月間さまざまなゲストハウスを訪れて営業方法を学び、大学時代を過ごした奈良を選んだ。 

薬局だった建物を借り、今年2月から内部を大幅に改装。

ロビーにはソファやテーブルを置き、利用者がくつろげるスペースにした。

料金は1泊2500円から。

ユースホステルと違って門限もなく、24時間出入り自由なのも特徴だ。 

宿泊する人の半数は外国人だ。

ロビーには地元の人たちも気軽に出入りし、互いに語り合いながら情報交換をする光景が見られる。

知人を通じて無農薬、有機栽培の豆を仕入れ自家焙煎(ばいせん)で作った「UGAYAコーヒー」が

彼らの間で評判になり、ロビーを開放してカフェとしても立ち寄ってもらえるようにした。 

瀬戸さんは「奈良は宿泊する所ではない、という印象を世界の多くの人が持っているのは悲しいこと。

観光地が点在し、長期間見て回る価値のある奈良にこそゲストハウスは必要だ。

需要も多いはずで、今後もっと増えてほしい」と強調する。 

ウガヤゲストハウス(0742・95・7739)