旅の空からの伝言


2008年10月24日(金) 奈良より


ゴミ出し一番!

先日に続いて獲得してしまった

まず無理だろうと思っていたのでなんとなく気抜け

寒くなってきて、皆さん起きるのが遅いのだろうか

ゴジラの動きもゆっくり

今日のウガヤは連泊3人

週末前の静けさ

せっかく昼間が空きのシフトなのだが空模様が優れない

今にも雨が落ちてきそうな気配だ

どうしようかな

浄瑠璃寺に行こうか

塩辛を作ろうか

空を見上げながら思案

コーヒー飲んで思案

日本の仏像100選パラパラ思案

時の過ぎ行くままに身を任せタイム・オーバー

おのずと塩辛

いつもの木村魚屋

「らっしゃい!良いアジ、はいってるで!」

「今日はイカ!塩辛作ります!」

「せや、この前の釜揚げ美味しかったやろう?」

「あーあれなあ。おいしかったわあ」

向こう側にいたおばちゃんに答えられてしまった

大仏ヘアに買い物かご

いかにもの関西のおばちゃん

さてさて

墨袋を破らないよう

塩辛を仕込む

時計仕掛けのスインギイング

月まで届くハミング

ビール飲んで昼寝

なんとなく

なんとなく

なんとなく幸せ







2008年10月25日(土) 奈良より


今日から正倉院展が始まる

奈良はカキイレドキ

ウガヤゲストハウスにも10名の予約が入っている

ひさしぶりの太陽

溜まっていた洗濯物を今日こそは洗いたい

4回転必要か

洗濯機を回しながら朝食の準備

残り物でササッとアレンジ

高菜を刻んで豚肉と炒める

イカのゲソは塩焼き

キャベツの浅漬け

昆布の佃煮

味噌汁には大根、ワカメ、油あげ

なかなか豪華な朝食だ

BGMは安東ウメ子

ムックリ

ウポポ

イヤイライケレー

今日は4人組のお客さんもいる

彼らのために普段寝ている部屋を空けなくてはならない

今夜は和室ドミトリー(通称東大寺)で琢磨くんと寝ることにする

北京に住むフランス人家族マーティニーさん達がやって来た

お子さんは15歳と17歳

葛城市に住むアメリカ人、モーガン・ロビンソンさん

奈良大好きヘヴィーリピーター生駒さん&伊藤さん

来月も来てくれる桑名からのオガワさん

エトセトラ

エトセトラ

ぞくぞくとチェックイン

夕方には一平さんと買い物へ

毛布導入のためだ

一挙に22枚の毛布を買うなんて最初で最後の経験だろう

「それ、もっと奥やでー!」

「6月1日、木曜日!」

深夜の東大寺では琢磨くんの寝言&イビキ炸裂

ロビーのソファに移動

毛布に包まる

ボンボン時計が3度鳴る







2008年10月26日(日) 奈良より


琢磨くんに聞いた

「6月1日って何?」

「エッ?エッ!何でですか」

何でですかもなにも叫んでたじゃん

琢磨くん曰く、6月1日は自分の誕生日なのだそうだ

なぜに彼は自分の誕生日を叫んでいたのだろう

そういう琢磨くんがダウンしてしまった

熱があってお腹の調子も悪い

数日前まで体調を崩していた一平さんと同じ症状だ

車に乗って病院へ行ってしまった

大丈夫かなあ

実は俺も熱っぽいんだよな

しかし本日は昼夜連続のシフト

踏ん張らないと

一平さんは町内会で春日ホテルへ

「ゲストハウスを御利用になったことはありますか?」

予約の電話を受けた時には念の為確認をしている

まだまだ日本では馴染みの薄いゲストハウス

初めてのお客さんには説明が必要になる

素泊まり・相部屋で食事は付かない

トイレ、洗面所、シャワーは共同

タオル等は持参してもらう

サービスを簡潔にする代わり、宿泊料金を抑えているのがゲストハウスだ

旅館の感覚で訪れたら「なんてサービスが悪いんだ」と感じる人も中にはいるだろう

そうは言ってもなるべく快適に過ごして欲しい

ウガヤではドライヤー、冷蔵庫、電子レンジ、インターネット等を使ってもらうことが出来る

サービスも少しずつ向上してゆく

昨日の毛布に続いて、本日からはシャンプー&ボディ・ソープが導入された

「そんなのゲストハウスじゃない!」と俺

まあまあ、ここはお客様が神様の経済大国ニッポンです

それぞれ20キロが8000円弱で買えたのだそうだ

半年くらいは使えるのかな

陽が暮れる頃には寒気がしてきた

ありったけの衣類で着膨れ

うーん、今はダウン出来ない

最後のお客さん、オーストラリア人のデビッドが入ってきた

奈良公園のイベントで太鼓を叩いていたのだそうだ

太鼓持参で荷物も大量

宿泊カードを書いてもらう

住所は空欄

次の行き先も空欄

チェックアウトの日も空欄

ほとんどが空欄

質問してみても全て「分からない」との返事

まあ自分も旅の時は同じだったな

明日のことなんか分からない

そんな風まかせの旅が良かったのだ

ただ宿側の俺としてはベッドを割り振る都合がある

住所や行き先は仕方ないけど何泊くらいするのかは知りたい

ベッドに余裕がある時なら構わないが、明日からは予約がいっぱいなのだ

でもまあ分からないものは仕方ない

どうにでもなるだろう

全てのお客さんがチェックインしたので布団に体を横たえる

静かな夜だ

ロビーからデビッドが爪弾くギターが聞こえる

よし、23時

戸締りして寝るぞ







2008年10月27日(月) 奈良より


子供の神様に会いたかった

今日はまひろ(姪)の手術の日

すでに入院して80日

これから二度目の手術が行われ、

3日ほど集中治療室に入ることになる

4歳の女の子にとっては大変な負担だろう

これが最後の手術になって欲しい

家に戻って幼稚園に通えるようになって欲しい

「あいかわらず善財童子は美しい眼をしていた

ひとの眼というより、兎の目だった

それは祈りをこめたように、ものを思うかのように、

静かな光をたたえてやさしかった」

(灰谷健次郎「兎の目」より)

西大寺、本堂

障子を通して日暮れが差し込んでくる

薄暗い堂内に初秋の風が通り過ぎる

小さな神さま

寂しくて美しい神さま

文殊菩薩を仰ぎふっくらと可愛い手で合掌している

視線の先にあるのは何だろう

希望に満ちた未来

永遠の日差しの中を歩いてゆく子供たち

元気になって欲しい

善財童子に手を合わせた







2008年10月28日(火) 奈良より


昨日は12人のお客さんが泊まった

本日は10人が宿泊の予定

全員が連泊なので落ち着いた日になるはず

仕事の合い間に実家へ電話

まひろの容態を聞きたかったのだが叶わなかった

知美からの連絡がまだないそうだ

昨日からずっと集中治療室に入っているために連絡が取れないとのこと

便りのないのが無事の印なのだろう

何事もなく手術が終わるように祈るしかない

そうこうしているうちに自分の調子が悪くなってきた

だるくて熱っぽく体に力が入らない

頭痛もする

遠出をしようとシフトを代わってもらっていたのだが、出掛ける元気が出ない

結局、午後の時間を布団で横になって過ごした

普段寝ている和室には4人組のお客さんが昨日から入っている

50代+60代の主婦のグループ

小さなリュックサックを背負い、友達同士で旅行を楽しんでいる様子が微笑ましい

自分は琢磨くんとの東大寺を諦めてスタッフ・ルームで寝ている

物置代わりのバック・スペース

その中の一畳ほどに空いた場所に無理やり布団を敷いている

カーテンを隔てた先が廊下なのですぐ頭の上を人が通る

話し声もそのまま聞こえる

贅沢は言っていられない

ひたすら横になり体を休める

18時になった

自分のシフトの時間なのだが体調が戻らない

夕食の用意をしなくてはならないのだが、買い物に出るのも辛い

やばいなあ

あゆちゃんが夕飯を用意してくれることになった

すまない

とにかく早く直さなければ







2008年10月29日(水) 奈良より


お!

今日は調子が良いかも

お好み焼きのおかげかな

蜜柑のおかげかな

ストナのおかげかな

ビールのおかげかな

皆さんのおかげです

逆さに見ていた地図さえ

もう捨ててしまった

BMGはあいのうた

味噌汁の具は大根、エノキ、長ネギ、ワカメ

奈良滞在もあとわずか

せっかくだからイキオイに任せて出かけてしまおう

とはいえ病み上がりの身なので風に当たり続けるのは避けたい

今日は近場

やすらぎの道をカブで北へ

クロスした一条通りをトコトコと西へ

まずは法華寺

もともとは藤原不比等の屋敷

その場所に総国分尼寺として光明皇后(聖武天皇の后)が建立した寺

尼寺らしくしっとりとした気品がある

お目当ては国宝であり秘仏でもある十一面観音立像

これが良かった

ぽっちゃりして腕が異様に長く足が短い

写真で見る限り、それほど惹かれる仏像ではなかったのだが

厨子に収まった佇まいがとても良い

天平時代、一木作り、100cmジャスト

インドの仏師問答師が彫った光明皇后の写し身とも言われている

知性と美貌を見初められて民間から初めて后になった光明皇后

エキゾチックな独特の艶かしさがある

蓮の蕾や葉の付いた茎を放射状に配した珍しい光背

生々しく美しい木目に絶妙の彩色

赤い唇

緑の髪

おさげが肩にかかった立体的な髪の毛

まなざしや唇に優しさと厳しさが同時に浮かぶ

ああ、本当にこんな仏像があるんだなあ

1時間ほど見つめていただろうか

本堂を後にする時、お寺の方が声をかけてくれた

「良いお参りでした」

さあ次ぎは海龍王寺

受付のお姉さんと世間話

奈良は時間の流れがゆっくりで人々に余裕がある

ここの本尊も十一面観音

知る人ぞ知る美仏

彫られたのは鎌倉時代

昭和28年まで秘仏として公開されていなかったため保存の良さバツグン

細工や彩色が見事に残っている

肩の辺りまで左手を上げ、蓮の蕾一輪を持っている

八方向に広がるシンプルな光背が印象的だ

綺麗だなあ

素朴で静かな御堂

手で触れられるほど真近に見られるのも良い

もっと近くでと顔を近づける

厨子に飾られた百合が甘く匂う

みうらじゅんが進呈したお酒が供えてある

板張りの床は歩くとミシミシ動く

その度に十一面観音さんの首飾りが揺れる

全体が見える位置まで下がり、壁にもたれて足を投げ出す

のんびりと拝めて良いなあ

ゆっくり

ゆっくり

「仏像を彫っている方ですか」と声をかけられた

一時間ほど過ごしただろうか

「良いお参りでした」

自分に言った

夕食後には片桐くんと華奈ちゃんが訪ねてきてくれた

明日香にオープン予定、はっぱ食堂の状況等を聞く

ふたりにはメキシコのサンクリストバル・デ・ラスカサスで会った

5月にお客としてウガヤに泊まった前日は、ふたりの家にお世話になった縁もある

1歳と5ヶ月になる日和ちゃんも一緒だ

もう立って歩いている

相変わらず暴れん坊だ

いきなりロビーでオシメを替え出す片桐くんが微笑ましい

良いよ、良いよ

ウガヤはスロー・スペース

子供は光の存在だ

マイちゃんが来て更に場が明るくなった

タイで会った友達を連れてきた

お店を終えた南果さんも遊びに来た

先日、はっぱ食堂を訪ねたらしく、片桐くん達に会えて驚いていた

恋するヒロイン御朱印コレクターのアキちゃんも来た

スカジャンが決まってる狂い咲きオシャマンベの堤くんもいる

一平さんに琢磨くん

ウガヤゲストハウスには光がある

楽しいなあ

十一面観音のおかげだろうか

座敷童子のおかげだろうか

気のせいだろうか

自分が元気になると宿も元気になるように感じる