バリ最後の夜。

22時を過ぎた。


打ち上げのつもりで、ひとり飲みに出かける。


ほとんどの店が閉まっていて夜道は暗い。

月明かりの散歩。

口笛。


開いてた「カフェ・エグザイル」を見つける。


静かに流れるラウンジ風のジャズが気持ちいい。

スキャットがさりげなくスイングする。


「この店、選曲いいね」


店員のバリニーズの女の子が

このカフェのオーナーは日本に住む、DJのロバート・ハリス氏で

彼が定期的に日本からCDを送ってくることを教えてくれた。


茅葺きの天井の高いゆったりとした空間。

おおきく広がったテラスに

夜の闇と木々のシルエットが見える。


バリのビール、ビンタンを飲む。


空気はちょっと湿っているが、すーっと気持ちいい風が吹き抜ける。


ジャック・ダニエルズをダブルのロックで飲む。


アルコールが体内に少しずつ広がってゆく。


静かな夜。


バリでの日々を思う。

日本にいる人を想う。


 ポチャ!


ロック・グラスの表面が揺れた。

何だろうか。


いつの間にか静かな雨が降っていた。

茅葺きの屋根から雨漏りの水滴がグラスに落ちたのだった。


バリに来て8日目。はじめての雨だ。

10月が近づくとバリは雨季にはいる。


夜が深くなってきた。

空気はひんやりしてきた。


グラスの位置を変えて、時々、雨漏りが落ちてくるテーブルで

バリ最後の夜を過ごした。