「自分の家だと思って、好きに使いなさい」


初めて粟国島に渡った時に、船で一緒になった中程さん。


粟国島に行った時は、いつも中程さんの家(奥さんの実家)にお世話になっている。




「木の下クラブ」は、そこの家の庭。


福木の下。


海が見える。


気持ち良い風が吹いている。


ビールがうまい!











那覇泊港を午前10時に出た船は、ほぼ正午に粟国島に着く。


港に入った船の上からツヨシさんの姿を探す。


ツヨシさんは、いつも何気ない場所に、さり気なくたたずんでいる。




「てっちゃん、よく来たね」


「ひさしぶりです。ツヨシさん元気でしたか」


握手を交わしツヨシさんの車に乗り込む。


まっすぐ向かうは「木の下クラブ」




「こんにちは。また、しばらくお世話になります」


テルおばあにあいさつ。


お仏壇にあいさつ。




「さ、てっちゃん、飲ろうか」


木の下クラブでツヨシさんと乾杯!


ゴクゴクゴク


のどをならしてビールを飲み干す。


ああ、帰ってきた。











ツヨシさんは隣の家に住んでいる。


ナイスガイな酔っぱらい。


何かとお世話になりっぱなし。


ツヨシさんの職業は染め織物。


煮出した福木で糸を染めて、その糸で織物をしている。


福木は防風林として島の家を守る頑丈な木。



福木屋HP:







ツヨシさんが、お昼御飯を用意してくれていた。


大好きな、ゆし豆腐。





木の下クラブ3大メニュー・その1「名人のゆし豆腐」



粟国島には、ゆし豆腐作り名人のおばさんがいる。


(このおばさん、映画「ナビィの恋」でも見かけました)


雑誌に取り上げられたこともある。


おばさんの豆腐を食べるためだけに東京から島を訪れる人もいるそうだ。




鍋に入った豆腐をすくう。


まだ、あたたかい


泡盛に漬けた島トウガラシ(コーレーグース)を一本。


トウガラシをくずして豆腐と一緒に味わう。


うまい!




海からの風を感じる。


島の時間に体が馴染んでゆく。



缶ビールが気持ちよく汗をかいている。









びーる。びーる。びーる。


冷蔵庫のビールをアイスボックスに補充する。


ツヨシさんが泡盛に切り替える。





遠くから汽笛が聞こえる。


午後二時。


那覇へ向かう船が出発する時間だ。


やがて風景画のように止まった景色の中を、船だけがゆっくりと遠ざかってゆく。




「さあ、ぼちぼち焼きますか」


炭火をおこす。





木の下クラブ・スペシャル・メニュー「サザエ、シャコ貝」




読書ができるほど明るい粟国島の満月の夜。


ツヨシさんが海に入って採ってくれた。


サザエ!シャコ貝!


たらした醤油のこげる匂い。


海の味が広がる。


うまい!




飲んだビールが気持ち良く汗に変わる。


泡盛に切り替え、ロックで飲む。


はじめに泡盛の味を堪能して、後は、ゆっくりと水割りで飲む。


すーっと体に沁みて気持ちの良い時間が長く続く。




ツヨシさんとお互いの近況を話す。


旅の話をする。


沖縄の話を聞く。


世界中を旅するのが自分の夢。


ベトナムの田舎で暮らすのがツヨシさんの夢。



ずーっと飲んで話して、いつの間にか日付が変わっていたこともあった。



時々島の人々がやってきて穏やかに世間話をしてゆく。


話すツヨシさんが、島の言葉に変わる。


「これ今朝、採れた」


蛸をもらった。


そのまま焼いた。









海からの風。


鳥のさえずり。


鮮やかな南国の花。


あおい海。


まっすぐな陽ざし。


おおきな風景。


ゆったりした時間。


生活する人々。


たくましく優しい人々。


沖縄の島には全てがある。





木の下クラブ3大メニュー・その2「サバ塩焼き」




沖縄の人は、あまりサバを食べないらしい。


でも、ツヨシさんはサバ好き。


自分も好き。


うまい!




猫にもあげる。


けなげな母猫が、子供の所へくわえてゆく。




少しずつ陽ざしが、やわらかくなってゆく。


青い空に白い穴があいている。


「あれ何ですか」


「ああ、星だよ。」


空は少しずつ深い群青色に。


空の白い穴が宵の明星に変わってゆく。




涼しい風が吹き抜ける。


草の匂いがつんとする。


空気の密度が増す。





木の下クラブ3大メニュー・その3「焼き肉」




太陽が赤く海を染めて沈んでゆく。


木の下クラブをライトアップ。


東の空には月が浮かんでいる。


水平線にさそり座が見えている。


遠く海の彼方には那覇の街灯りが見える。


ちょうど大地と海を分けるようにオレンジの点線が走る。




午後8時。


民宿の夕飯が終わる頃。


島で会った旅人達も木の下クラブに合流。


出会った奇跡に感謝しながら酒を飲む。


粟国島に感謝しながら夜が深まる。









大林君は東京から来た一人旅の大学生。


コースケ君は福島から来たフリーター。


尚ちゃんは山口から来た歯科衛生士。


千歩さんは島の民宿のヘルパーさん。


大林君、コースケ君、尚ちゃん、千歩さん。


元気にしてますか。









上砂さんは粟国島の神様に愛されている。


「沖縄の祭り-大和人から見た粟国島年中行事の現状-」が彼女の卒論。


初めて上砂さんと会ったのは東京の「Gallery Bar 26日の月」


ツヨシさんの紹介で個展を見に来てくれた。


二度目に会った時は粟国島の哀歌を聞いた。


三度目に会ったのが木の下クラブ。









夜も更けるとゴトッゴトッとヤドカリが動きだす。


さあ、そろそろ今日はおひらき。


飲んだ。飲んだ。


笑った。笑った。




水平線近くにあったさそり座がいつの間にか高い位置にある。


赤い星アンタレスが輝きを増す。


サーッと天空いっぱいに弧を描き、星が流れてゆく。


星の瞬きが流れる時の音を刻んでいる。





おやすみなさい。


また明日。