石垣島の港から船に乗って約15分で竹富島に着く。
荷物を降ろして最初に向かうのは、いつも決まって西桟橋。
珊瑚の欠片が敷き詰められた白い道を歩く。
麦わら帽子のシルエットがくっきりと浮かぶ。
ビジターセンターのでいごを抜けて、亀甲墓を横目で見ながら、ゆっくりと坂を下る。
いつもの木陰に投網が干してある。
急に開ける青い海は、きらきらひかる宝石をいっぱいに湛え、あっけらかんとそこにある。
その美しさは初めて訪れた時から何ら変わりはない。
変わったものは何だろう。
彼方に西表島が見える。
海に突きだした桟橋を歩く。
すぐ近くを20センチほどの烏賊がゆらゆら漂う。
「食べるとおいしいよ。こんな近くまで来るのは珍しいんだけど」
そう言いながら、地元のおっちゃんが通り過ぎた。
桟橋の先端まで歩く。
思い切り海を吸い込む。
閉じた瞳に青い海が残像として残る。
ブルーに漂い、ブルーに溶けた。
ただそこにあっけらかんとある変わらない美しい海。
開かれたその美しさを語る言葉を持たない。
変わったものは何だろう。
圧倒的な美しさを前にすると、ただ立ちすくむことしか出来ない。
立ちすくみ、ただそれを認めるだけだ。
その美しさを認めるだけだ。
同時に浮かび上がってくるのは自らの醜さ。
変わったものがあるとしたら、それはおそらく自らの認識。
生きる悲しみのように、揺れとして心に宿る鈍い痛み。
美しいものに触れることを求める欲望。
癒されることを求め続ける満ちることない欲望。
卑しさを内包する欲望。
昼間の星が満天に広がり降り注いでくる。
また、この桟橋にやって来る自分の姿が透けて見える。
烏賊のように波間を漂っている。
美しさに近づくために。