今が現在地。

此処が現在地。


あの頃、想像も出来なかった現在地。



どうしても野球がやりたかったらしい。

日曜日クラスメイト全員に集合をかけた。

その日は朝から雨だった。

クラスメイト達は当然、中止だと思っていた。

「いや、やる。雨だから、また、いいんだ」

結局、雨の中、野球をやった。

そのうえ、全員に一塁へのヘッドスライディングを強要した。



この話は、一年振りに飲んだ、中学時代の友人から聞いた。

野球がしたかったのは、紛れもない、この自分なのだそうだ。

しかし、全く覚えていない。

身に覚えがない。

「マジかよ」といった感じである。

あーきっと自分が覚えてないだけで、

他にもたくさんの迷惑をかけてきたんだろうなあ。

思いがけず、過去の自分に出会ってしまった。



「雨の日になんてやるなよ。そんなの断れよ。普通やらないぜ」

無責任にも、今の自分は、元クラスメイトに、そう言った。

ビールを飲みながら。

しかし、そう言いながら、心の中では、この友人に感謝していた。

ありがとな。

こんな我が儘で無茶苦茶な自分と、今でも友達でいてくれて。



今、思う。

いろいろな人に支えられて、今の自分がある。

今、思う。

いろいろな時を越えて、此処に自分がいる。



例えば。

ばあちゃんに手を引かれて、祭りに行った。

山車の上で叩かれていた太鼓に憧れた。

小学4年になり、祭りのお囃子の練習を始めた。

祭りの日、早退して、はっぴに着替えながらラジオをつけた。

初めて意識した海の向こうの音楽。

遠足のバスの中、その歌を歌った。

「俺もその曲、好きなんだよ」

ビートルズ、ローリングストーンズ、チャック・ベリー、ロバート・ジョンソン。

ブラック・ミュージックにのめり込んだ。

音楽が生活の中心になった。

バンドを組んだ。

レコード会社に就職した。

ディレクターになった。

様々なミュージシャンと出会った。

様々なアートスタッフと出会った。

体を壊した。

生活を根本的に変えた。

写真を撮り始めた。

旅を始めた。

個展を開いた。

ホームページを作った。



ごくごく簡単に書こうと思っても、いくらでも思い浮かんでくる。

そして、その行間には限りない友人と事柄が存在する。

出会い、出来事、時間、空間。

限りない広がりを持って存在する。



現在参加している、高円寺の阿波踊りや浅草のサンバカーニバルも

こんな流れの延長である事は間違いない。

あの日、バスの中で、声をかけてきた友人とは

今も一緒にバンドを組んでいる。

CDのジャケットを描いてもらったイラストレイターに出会ったから

ホームページや個展を始められたのだと思う。

繋がりを、書き出すときりがない。



全ての事象は繋がっている。

そして、そこには人と人との出会いが不可欠だ。

全ての事象が単独で成立する事は不可能なのだ。




何気なく過ごしている今も過去になる。

そんな時間が積み重なってゆく。

今という時の重さを感じる。

そんな時間の中での出会いの大切さを感じる。

まさに一期一会。

何気なく過ごしている今という瞬間も、過去と未来に繋がっているのだ。




今が現在地。

此処が現在地。


あの頃、想像も出来なかった現在地。



現在地は、どんな未来に繋がってゆくのだろう。

今、此処にいることを大切にしたい。



2002年2月22日








(思いがけず現れた、十数年前の現在地。就職の為の履歴書用に撮りました。)