グレープフルーツ・ジュースを、ひとくち飲む。

       イルカが飛び跳ねてるジャケのCDなんか繰り返し流しながら
       前進と上昇について考える。

       さわやかで優しい風が吹いてくる。

       「チン!」

       窓には、ウインド・ベルが風鈴代わりに吊してある。
       バリ島で買ってきた、小さなウインド・ベル。
       風に揺れて、いち音だけが、涼やかに鳴る。

       「チン!」

       優しい風が、ときどき微かに揺らす。

       その音に、実家にある電話を思い出す。
       昔ながらの黒い無骨なダイヤル式。
       今なお現役。

       「チン!」

       この電話は鳴り出す前に、ちょっと高い音が鳴る。
       そして、なぜか、鳴り始める前に、その予感がある。

       あ、鳴るな。

       「チン!」

       「ジリリリーン!」


       アコースティック・ギターがカッティングを繰り返す。
       グラスがいつの間にか水滴で濡れている。
       グレープフルーツ・ジュースを飲み干す。

       あ、鳴るな。

       「チン!」

       「ピピピピッ!ピピピピッ!」

       なぜだか目覚まし時計が鳴り始めた。



                       2002年5月19日