地下鉄の改札の前の本屋でちょっと時間をつぶす。

          時間が迫り階段を上がると外は既に夕方の淡いひかりだった。



          水が流れる音が映画館の闇に聞こえる。

          夕方の蛙が静かに鳴く。


          「風花」

          主演:小泉今日子。

          一緒に歳をとってきたように思える世代だ。

          自分と同じ齢のアイドルの出現に複雑な気持ちになったあの頃。

          既に20年近い年月が流れている。


          何が変わった訳でもないのに、鏡に映る自分は、あの頃とは違う。

          周りからは、おとなとしか見られない自分がいる。


          いろいろな時を経て、今がある。

          それぞれの人生がある。

          それぞれを経てそれぞれを思う。


          いろいろな時を経た男と女の物語。

          帰るところのない男と女の物語。


          「そんなに苦しまなくてもいいのに」

          酔いつぶれた男に向かって深夜ひとり呟く。

          自分自身に向かって呟く。


          苦しいのに笑ってみる。

          時には、こころから笑う。

          一瞬だけど苦しさを忘れる。


          「しっかりしろよ」とも「しょうがないよ」とも思う。

          そうやって年月が流れてゆく。


          水が流れる音が映画館の闇に聞こえる。

          夕方の蛙が静かに鳴く。




          また今年も桜が咲く。

          また今年も桜が散る。

          風花のように花びらが舞うだろう。




                                 2001年3月11日