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カメ蔵の水槽に水滴が付いている。
冬の間はヒーターを入れるため、気温の低い日には水槽の水が蒸発する。
「今日は冷え込んでるんだなあ」
そんなことで冬の真ん中にいることを知る。
良い匂いがしてくる。
昆布と椎茸で取った出汁の匂いが部屋中に広がる。
鍋の中では大根が煮えている。
喉がイガイガする。
空気が乾燥している。
湯舟の水をそのままに、ユニット・バスのドアを開けたままに寝る。
翌朝、窓には水滴が付いていた。
水は空気になる。
空気は水になる。
異なる物質同士はひとつになろうとする性質を持つのかもしれない。
新しい年がやってきた。
また、ひとつ歳を重ねる。
最近、以前と比べると頭にくることが少なくなった。
長く生きるほど、それなりに経験が増える。
もたらされる怒りを、自分の経験と重ねると、大体の事は許すことが出来る。
そこには過去の自分が見える。
お互い様じゃねーか。
えらそーなこと言えねーよ。
傲慢。
怠惰。
欲望。
虚栄。
差別。
時に愕然ともするが、全て自分の内側にも存在する。
怒りを突き詰めてゆくと、見えてくるのは自分自身の弱さだ。
許せないと思った相手を、よく見ると、そこにはよく似た自分がいる。
自分と他者の境界線が曖昧になってゆく。
意識が私から私達へと移行する。
免疫を司る胸腺は40歳で、ほぼその機能を停止すると言われている。
免疫とは自分と他者を区別する能力だ。
年齢を重ねるほど自分と他者の境界線が曖昧になってゆく。
神に近づいてゆく。
私から私達へ。
母なる星で生まれた私は、私達という母なる星へ還ってゆく。
宇宙で生まれた母なる星は、私達という宇宙へ還ってゆく。
鍋の中では大根が煮えている。
2003年1月15日
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