23:00。

        タイのドンムアン空港に着いた。

        ベトナムに向かう便は、翌日の8:35。

        今晩は空港で夜を明かす。


        この時間のドンムアン空港は、まだまだ、たくさんの人がいる。

        さまざまな人種が行き交う。

        世界中の人々に交ざりベンチに座る。

        機内から貰ってきた赤ワインをボトルのまま飲み干す。


        やっと旅に出た実感が湧いてくる。

        今、自分は世界に向けて剥き出しである。

        自分自身は自分で守る。

        これからの数日間、全てを自分で判断して

        その結果の全てに、自分で責任を取る。

        普段の生活でも、実際は、そうであるのだが

        一人で旅に出ると、よりその感覚を強く意識する。

        ある種、すがすがしい感覚だ。


        まだ、眠くないので、文庫本を開く。

        インド系エアラインの発着があるのだろうか。

        インド人が周りには多い。


        ふと、今の自分は、周りからどのように見えるのだろうと思う。

        始めて一人で海外に出掛けた時から

        よく日本人に英語で話しかけられた。

        「日本人ですよ」と返すと

        「どのくらい住んでいるのですか」と言われた。

        あまり緊張感が無いのだろうか。

        いつでも、ありのままでいたいとは思っている。


        照明が少し落ちた。

        二時を過ぎた。

        人通りも、ずいぶんと減った。

        バック・パックを枕にしてベンチに横になる。