タクシーの中からベトナムの街を眺める。


タイでもインドネシアでもない。

ベトナムだ。

そして、まさしくアジアだ。



女性は三角の笠を頭に被って

荷物を肩に掛けた天秤で運ぶ。


写真や映像で見た、ベトナムの情景、そのままだ。


道路には圧倒的にバイクと自転車が多く

車道の真ん中を、お構いなく走り回る。


タクシーはクラクションを鳴らしながら

バイク・自転車を掻き分けるように走った。


道は舗装されていない部分も多く

所々が工事中だ。

建設中の建物も多い。


車の窓を開けていられないほど、排気ガスとほこりがすごい。

道行く人には、マスクをかけている人も多い。



しばらく走るとドライバーは車を止めてしまった。

フエまでは、約40キロ。

空港を離れて、やっとダナンの街にさしかかった辺りだ。


ドライバーは振り返って、後部座席に体を乗り出す。

タクシーの後方に止まっている路肩のバスを指さす。

「チーパー、チーパー」

だから、なんなんだ。

彼の英語は、聞き取りづらい。

何だか、後方のバスもフエまで行くと言ってるようである。

ボロボロのバスだ。

たくさんの荷物がボンネットにくくりつけてある。

「いいから行ってくれよ」

いくら言っても、ドライバーは車を走らせる気配がない。

「チーパー、チーパー」を繰り返す。

やがて、彼は紙を取り出し、身振りを交えながら書いた。

タクシーを指さしながら「30」、バスを指さしながら「20」

バスで行けば20ドルで行けるということか。

タクシーの料金も、ちゃっかり30ドルまでつり上げている。

「チーパー、チーパー」

彼は、どうしてもバスに乗せたいらしい。

せっかく拾った客をどうしてバスに乗せようとするのだろう。

どうも、おかしい。


今回の旅はガイドブックを持っていない。

カバンから文庫本を取り出す。

「ディス・イズ・ガイドブック」

言いながら、適当にページを開いて読んでるふりをする。

どうせ日本語は分からないだろう。

「ダナンからフエはバスだと5ドルだと書いてあるぞ」

当てずっぽうに適当な金額を言ってみる。

ドライバーの顔色が変わった。

やっぱりな。

高い金額を徴収して、安いバスに乗せる。

自分で運転せずに、ピンハネしようとしてたんだ。

まったく、こいつ。

「ユー・アー・ノット・ドライバー、ユー・アー・ビジネスマン!」

自分のウソがばれたドライバーは笑ってごまかした。

「おまえは、ごまかそうとしたからフエまで5ドルだ」

顔をしかめてみせる。

奴は、ごまかそうと、笑いながら、こちらの顎髭を撫でた。

ったく、ちゃんと連れて行ってくれよな。

やっと車が走り出した。

(後ほど分かったことだが、ダナンからフエへのバス料金は3ドル。

 タクシーは30ドルが相場だそうだ)


ダナンからフエへの移動は

海岸線、山道、田園地帯、漁村などを通り

なかなか、おもしろい眺めだった。


ドライバーは、こちらに気を使ってるのか、時々後ろを振り向いて

「疲れてないか」と声を掛けてきた。

基本的には悪い奴ではないようである。