路上のカフェでコーヒーを飲む。

        通り過ぎる人々を低い位置から眺める。

        この国の椅子は極端に低い。

        男達。女達。子供達。

        おだやかなで、ゆっくりと時間が流れる。

        こうやって見ている限り、この国は平和だ。

        遠い空の下で、何が起こっていようとも

        この町の日常や生活がある。



        過去、この地で起こった激しい戦争について思う。

        そのことをキチンと知っておくこと。

        そのことを無闇に口にしないこと。

        それが彼らへの礼儀であるような気がする。



        この町の城壁には、弾丸の跡や、爆撃で壊された跡が

        生々しく数カ所にわたり残っている。


        ここフエではベトナム戦争中

        最も激しい戦いが行われたのだ。



        冷戦を背景に繰り広げられた地獄絵図。

        泥沼と表現される、アメリカによる長年の執拗な攻撃。

        空中散布された枯れ葉剤。

        毒ガス弾。

        無差別大虐殺。

        200万人を越えると言われる犠牲者。

        爆撃に逃げまどう母子。

        自らの肉体に火を放ち、死を以て抗議する僧侶。

        写真や映像に残る、戦時下のベトナムは

        まさに地獄だった。



        今またアメリカは正義の名の下、戦争を始めようとしている。

        この国の人々は、その事を、どのように思ってるのだろう。

        あの地獄は、それほど、昔の事ではない。



        ひとりの女性と眼があった。

        間違いなく地獄を見てきた目だ。

        その瞳の奥を読みとることは出来なかった。