ホイアンは、ベトナム有数の貿易港を抱え

        貿易中継都市として栄えた町だ。


        かつて多くの日本人も住んでいて、日本人町もあった。

        江戸幕府が鎖国を始めてからは、華僑が進出したため

        町には中国南部の雰囲気が漂っている。


        今は、ひっそりとした小さな町だ。

        瓦の屋根が続く古い町並みには

        何ともいえない、懐かしさを感じる。


        人々もおだやかで、さりげなく優しい。



        路地のような細い道を抜けると

        旧市街のチャンフー通りに出た。



        きっぱりとした午後の光を受けたチャンフー通りを

        ベトナムの少年と並んで歩く。


        名前はミン。

        彼は、さっきからずっとついてきている。


        ミンに旧市街への道を教えてもらったお礼に

        彼の姉がやっている服服屋に行く約束をした。


        客引きに成功したミンは上機嫌だ。


        「トーキオ、オーサァカァ、ナカァタ、ナナミィ」

        知っている限りの日本語を披露してみせる。

        「アイシテマァース」

        「俺は男だからな」

        「ハハハ、テツ、何でひとり?ガールフレンドはいるの?」

        「当たり前よ。メニーメニー、アラウンド・ザ・ワールドだ。」

        「リアリー?僕にも紹介してよ」

        「ミンが東京に来たらな」


        片言の英語で話していると、店に着いた。


        どうやら生地を選んで

        オーダーメイドで仕立ててくれる店のようだ。


       明らかにベトナムの物ではない

        英語で書かれた通販の厚いカタログがあり

        その中から形を選ぶみたいだ。



        生地やカタログを、いくつか見せてもらった。

        欲しい生地も服の型もない。

        申し訳ないが、服を作るのは断った。

        残念そうな顔のミンに

        明日、日本のコインを持ってくる約束をして
店を出た。


        とりあえず町を歩いてみよう。