日暮れ前にボートに乗るのが日課となった。

涼しい風が吹き始めたトゥボン川沿いを歩いていると

川に浮かんだボートから客引きの声がかかる。


いつも乗るのはマイちゃん(45歳)のボートだ。


ホイアン初日に乗ったボートでは漕ぎ手の女性が

3人乗りしゃべりまくって非常にうるさかった。


それに比べてマイちゃんのボートは静かだ。


ゆらゆらと少しずつ進む。

辺りはだんだん暗くなってゆく。


風が吹き抜けて、木々がざわめく。

蝉の鳴き声が遠くに聞こえる。

水を掻くオールの音が静けさを引き立てる。


「泣くなよーや ヘイヨー ヘイヨー

てぃだ(太陽)ぬ ひかり 受きてぃ」

沖縄の言葉で作られた子守唄を、口ずさんでいた。


静かな揺れ。

川面に吹く風。

空の色の変化。

ゆっくりと時間が流れる。


「フィッシング」

「ムーン」

時々聞こえるマイちゃんのシンプルなガイドは耳に心地良い。


ゆらゆらと思考が停止した気持ち良いを過ごす。


ゆっくりと静かに空の主役が月に変わってゆく。

夕焼けに闇が混ざる頃、ボートは岸に着く。


「ナイス・トゥー・ミーチュー」

マイちゃんが握手を求めてきた。

「カムオン」

ベトナムのありがとうで返す。

「また明日ね」