ホイアンの町の北のはずれには

日本人の墓と呼ばれるお墓がある。


詳しい場所は分からないが

北に向かう道は数本しかない。

行けば分かるだろう。

とりあえず宿で借りた自転車を北に走らせる。


舗装された道が、土の道になり

ちょっとした林を抜けると

田圃が広がるあぜ道に出た。

デコボコのあぜ道。

遮る物がなくなり、急に風が吹き付ける。


しばらく進むが、それらしき物が見あたらず

あぜ道を引き返す。


民家がある辺りまで戻ると

道に出ていた40歳くらいの女性に手招きされた。


彼女の処に行ってみる。

そこは野外に作られた小さな学習塾のような処であった。

黒板を前にして中学生くらいの女の子が3人座っていた。

手招きした女性が先生のようである。


黒板には英語の構文が書いてあった。

文章の真ん中辺りのカッコが空欄になっている。

関係代名詞の問題のようだ。

先生は、いきなり黒板を指さし

「ここには何が入りますか」と聞いてきた。

おいおいおい、唐突だなあ。


生徒達は突然の訪問者を緊張した表情でジッと見ている。

「which」だろうと思ったが、ひとりの女の子に向かって

「いやー難しいよ。分からないから助けて」と言ってみた。


先生は「しょうがないなあ」といった身振りをした。

女の子は、おずおずと前に出ると

黒板の空欄に「which」と書いた。


「正解!」

「いやいや、素晴らしい。ベトナムの子供は頭が良い」

大げさに拍手をすると一気に場が和んだ。


3人の女の子達は聡明そうな顔立ちで

笑顔が、とても可愛い。


先生に「写真を撮っていいか」と聞いてみる。

「イエス、イエス」

先生は何を思ったか、黒板の前でポーズをとりだした。

片手を頭の後ろ、別の片手を腰の後ろ。

モデルのようなセクシーポーズである。

かんべんしてくれー。

撮っているふりをした。

女の子達にカメラを向けると先生が入ってくる。

そして、なりきった目線が怖い。

結局、写真は撮らなかった。


「日本人の墓は、どこにありますか」

先生に道を聞いてみた。

どうやら、ここからは行きにくい場所にあるようだ。

小さな男の子が呼ばれた。

「彼を自転車の後ろに乗せて行きなさい。

彼が案内します。ちゃんとここに連れて帰ってきてね」


「オーケー、ありがとう!」


呼ばれた男の子は、帽子を斜めに被り

はにかみながらも、ちょっと得意そうである。


「名前は?」

トゥアン」

「俺はテツ。よろしく」


トゥアンを乗せて、再び、あぜ道を走る。

風は強く、道はデコボコで進みづらいが

男同士の2人乗りはいいものだ。


藁を焼いている煙が遠くに立ち上る。


分かれ道に出くわすたびに、自転車を止め

トゥアンが指さす方向に向かった。