遠くまで見える、まっすぐな坂道を上っている。
温泉街で道の両側には温泉旅館が立ち並んでいる。
手ぬぐいを持っている。
雪が降っている。
彼方此方で湯気が立ちのぼる。
道行く人の肩に雪が積もる。
記憶を頼りに「秋田屋」を捜している。
荒れた空き地の向こうに覚えのある建物が見える。
荒れ地を横切り、古ぼけた木造の建物に入ってゆく。
廊下が軋む。
のれんの奧から男が出てくる。
「此処にお湯はありません」
「昔浸かった此処のお湯が忘れられないのですが・・・」
「今は誰も入れてないのです」
「そこを何とかお願いします」
「分かりました。特別に用意しましょう。
しかし、その前に、私達の旅に同行して下さい」
のれんの奧にゴッホの青いアーモンドの木の絵が見えている。
これは転機を意味する大きな決断だと思っている。
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