むらさきの砂が降ってくる。


どんどん積もり町を覆ってゆく。


砂に埋まりそうな路地を抜ける。


遠い昔に住んだ板張りの懐かしい家がある。


玄関に喪中の札が貼ってある。


三人のおじさんが立ち話をしている。


彼らは一斉に天を仰ぎ山を指さす。


家の向こうに尖った山がそびえている。


山の端から水分を大量に含んだ雲が立ちこめてくる。


重く黒い雲がスローモーションで落ちる滝のように迫ってくる。


雲から逃れるように先を急ぐ。


赤い提灯や出店の並んだ祭りの人混みを抜けてゆく。


田舎の畦道に出る。


稲刈りが終わり藁が積まれている。


歩みを緩める。


遠くに細い煙が立ちのぼっている。


友人夫婦の家を目指す。


土地を購入し数年かけて自分たちで少しずつ作った家。


やっと完成した、その家を訪ねる。


家は海を見渡せる絶壁に建っている。


その家からは、夫婦の人柄を思わせる


あたたかい手作りのぬくもりが感じられる。


再会を喜び握手を交わし、お互いの近況を話す。


しばらくすると男の子が訪ねてくる。


これといって特徴のない10歳くらいの男の子。


表情がない。


彼は家に上がろうとする。


友人夫婦が必死に帰るようにとなだめすかす。


最近、この男の子は毎日のようにやってくるのだそうだ。


一見、どこにでもいるように見える男の子。


しかし、彼の正体は、この辺りに棲む邪悪な神なのだそうだ。


大変に強い力を持った神で、触れただけでも祟られてしまう。


怒りをかわないように、なだめて帰ってもらう他に手だてがない。


ふと気を許した瞬間に男の子は二階に駆け上がった。


慌てて追いかけ階段を上る。


既に二階の部屋は廃墟のようにボロボロになっている。


男の子は屋根の瓦を踏み抜きながら歩いている。


思わず駆け寄り、彼を羽交い締めにする。


「そいつに触れちゃだめだ!」


触れた瞬間、全身に熱く鈍い痛みが走る。


世界がどろりと歪んで、意識が遠くなってゆく。


「ひかりを感じるんだ」


どこからか声が聞こえる。


邪悪な神は、廃墟になった部屋の隅で、膝を抱えて動かない。


「どうしてこんなことをするんだ」


熱い痛みに堪えて、顔を上げさせる。


「おまえに何が解る」


表情のなかった顔が、憎しみに充ちた邪悪な笑い顔に変わってゆく。


だんだん口が裂けてゆく。


「無用に焼かれた命が、おまえに解るのか」


男の子の目の中に焼けただれた大地が見える。


また、あのむらさきの砂が降ってくる。