ガランとした木造アパート。
住人が出ていったそれぞれの部屋に入ってみる。
すでに消えそうな生活の気配が、かすかに漂っている。
自分の荷物をまとめ、淡い感傷と共に、最期の部屋を出る。
海に続く長い坂道を下りてゆく。
南の島に青い雪がつもっている。
カメラをバックから取り出す。
ファインダーを覗きピントを合わせる。
島の雪景色を写真に収めるのをやめる。
小さな港に着くと最終の船は出てしまっていた。
テントを張る場所を探す。
ひとりを実感する。
静寂が音楽に変わる。
リヒテンシュタインの音楽が聞こえてくる。
星の大きさを感じようとする。
電車に乗っている。
学生服を着た生徒がたくさん乗ってくる。
修学旅行のようだ。
混雑してきたので田舎の駅で降りる。
ホームを歩いてゆく自分の後ろ姿を見た。
トリコロールカラーの大きなバックパックを背負って
ゆっくり遠ざかっていった。