第九話



小倉先生のお宅に通っている頃の思い出の中に、写譜の記憶がある。

戦後のことなので、まずギターの楽譜を一般の人間が

自由に手に入れることが、ほとんど出来なかった。

しかし、レッスンを受けるのに楽譜がなくては何も出来ない、

仕方がないので、先生のお宅にレッスンに伺うと、

レッスンは30分あるかないかで、後の2〜3時間は写譜をした。

次のレッスンに受ける楽譜はもちろんのこと、出来る限りの楽譜を写譜した、

今、当事の写譜したものを見てみると間違いがひとつもない、

完璧に写し取られている、運指、指使い、音楽記号・・・・・、

まったく間違いがない、自分の物ながらよく写したものだと思う、

写譜をしたことによって勉強になることが多かった、

非常に大きな財産になったと思っている。

先生は、楽譜を貸し出すということはしなかった、

当然ながら散逸することを最も恐れていた、

一度失ってしまうと、もう一度手に入れることが非常に難しかった、

楽譜に気を使われていることが分かったので、通ってくる生徒はよく写した、

レッスン時間の何倍も時間を費やした、

コピーのない時代とにかく写すことしか方法はなかった。

もう一つ印象に残っていることがある、

後に日本のギター界の重鎮となられる、

京本輔矩氏が時を同じくして小倉先生のお宅に出入りされていた、

時々、お顔を合わせたり、ベニスの商人の公演にもご一緒した記憶がある。

特別お話をしたということはありませんが、

年齢は、かなり上だったと記憶しています、

今もお元気でおられるのだろうか・・・・・。




当時、写譜された近藤さんの手書き楽譜、
読みやすくきれいに書かれている、
気を使って写したことが分かります。






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