獣医エッセイ
                             (水族館にて)



                            

                       





  otterの話(2)




 前回は、私のアドレスに含まれているotterについて書きました。

アドレスにはもうひとつ、
sophiaという語も入っています。

sophia
(ソフィア)は飼育していたユーラシアワウソの名前です。

やさしい顔をした、ドイツの動物園生まれのメスでした。



エピソードその1

 ある時、sophiaの後ろ足に大豆ほどの大きさのできものを発見しました。

検査をしてみると良性の腫瘍でした。

それ以上大きくなる様子もなかったのですが、

大事をとって手術で取り除くことにしました。

ごく簡単な手術なのでしょうが、

大学を卒業してまもない頃で、

手術のトレーニングを積んできたわけでもない私には、

大きな仕事でした。

手術室というものがなかったので、

屋根があって割と作業スペースのある、

ペンギンの鳴き声がにぎやかなところで、

何とかはじめての手術を終えました。

うまく皮膚を引き寄せることができないで、

苦労したのを覚えています。



エピソードその2

 sophiaは同じ動物園から来たオスと一緒に暮らしていましたが、

そのオスに病気で先立たれてしまいました。

プールの中に投げ入れられた餌の魚を、

いつもなら1本食べては1本潜って取る、

を繰り返していたのが、

少しも食べないままにどんどん並べていきました。

カワウソには、狩りを楽しむように、

捕った魚を並べる習性があって、

獺祭(だっさい)”と呼ばれます、

(転じて、調べものをするのに広げた本をたくさん並べるさまをいいます)。

sophiaのこの行動を獺祭とみなすこともできたのかもしれませんが、

私には死なれた連れ合いに、

お供えをしているように思えてならなかったのです。



 そのsophiaは私が看取りました。

15年生きてくれました。

今日
327日は彼女の命日です。





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