渡辺さんの俳句傑作選
2005年
1月の俳句
絵馬付きの 破魔矢抱えて 若夫婦
大晦日の紅白の最後を見てからの
思いっきりの夜更かし・・・・・
昼まで寝ていて朝昼兼用の食事をして
さて初詣
すでにお参りを済ませて帰ってくる人とすれ違う
破魔矢についた鈴の音もさわやかに
若夫婦が楽しそうにこちらの存在にも気づかぬように
通り過ぎてゆく
若い二人の寄せ合った肩に忍び寄る
隙間を射る矢になるのだろうか・・・・・
守護神も 守護霊もあり 去年今年
去年は天災続きの一年だった
中越地震、毎週のように上陸する台風
浅間山の噴火、脅威の猛暑で秋らしい日がほとんどなかった
決めがスマトラ島沖の巨大地震
災害を書いてるだけでこのコラムのスペースが終わりになりそうだ
いずれの場所にもかかわりがなかった
その場所にもし自分がたっていたらと思うと
筋肉の若干衰えた背中に
タラリのひとしづくが流れそうだ
守護神というものの存在を認めざるおえないような年だった
今年は主役が交代して守護霊が前に出てきて大丈夫だろう
恋果てて 枯れ野となりし 庭球場
庭球場というと若干言葉が古すぎて
若い人には難しいかもしれない
テニスコートのことである
テニスコートというと若人たちの代名詞のような時代もあった
最近はその当時の若人が若干足取りが遅くはなったが
元気に走り回っている
昔のさわやかな恋の花が咲く
という新鮮なイメージも、なんとなく紫色っぽくなってしまっている
配給の 雑炊もらい どんどの火
地震災害にあってしまって
家財道具のほとんどを失ってしまって避難所で生活している
人たちに食事の配給が配られる
それを食べながら
どんど焼きの火を見つめている人たちの目は
これからの厳しさを火の中に見出しているようだ
小さい子供たちだけが大きいおわんを持って
無邪気に笑っている
冬日和 犬にもつける 万歩計
冬の寒さも本格的になり
去年の猛暑が懐かしくなるような毎日になった
寒くなればついつい休日になっても外に出ずらくなり
いわゆる、こもる状況になる
いかにも中年らしくなった体型と体重を感じる
わが愛犬も同じように年を取ってきて
とにかく運動させないといけない
その理由を前面に押し立てて
自らの体を持ち上げ外に出る
すぐに帰ってきてはお互いのためにならない
万歩計を腰に付けるのもどうもいまひとつだ
いっそ犬に付けてその歩数を気にしてやる・・・・・
このコンセプトで散歩に出発だ
湯豆腐や 米寿の父の 与太話
去年の暮れくらいからだいぶ寒さもまして
熱い鍋料理が恋しくなってきた
鍋の中でもシンプルな湯豆腐を前に
熱燗で親父と差し向かいで
ポン酢の器に豆腐を入れてはしでつつく
父親が独り言ともつかない話をしゃべりだす
調子を合わせて聞いていると
話しは滑らかになって留まるところをしらない
酒が進んでくると、こちらの話は素通りして
ますます滑らかに言葉が湯豆腐の鍋の上を踊ってる
いかに自分が若い時にモテたかを直球、カーブを交えながら話す
90歳も目の前の親父のそんな自慢話に
何とはなしに愛嬌を感じる真冬の夜だ
日経を 読むホームレス 冬の空
2005年がはじまろうとしている
誰が言ったか新聞では2004年は好景気だったそうだ
しかしどこが好景気かまったく分からない
あの世の話ではないかと呆れてしまう
あの世ではいつも好景気らしい
リストラは続いており
社員がいなくなるまで続ける勢いだ
社員がいなくなると会社もリストラしてしまうのだろう
そこまで先鋭化した当世リストラ事情だ
リストラされたのだろうか
ホームレスが真剣なまなざしで日経を呼んでいる
しかし、リストラされて路上で暮らしていて
日経を読むこともないと思うのだが・・・・・
刷り込まれたサラリーマン魂が
冬の寒風の下で、なんともわびしい
冬帽子 ひとつで三つ 恋をして
冬の寒さも増してきて
外に出るのもわずかな暖を準備する
その小道具のひとつ、帽子
深々と冷える時は頭のつむじから寒くなるものだが
帽子をかぶるとなかなか快適になる
ついでになんとなく自分の今の存在も隠してるような・・・・・
そんな気分になるといきなり
すれ違いざまの20代の娘さんに
ポコッと心熱くなるものがある
まあそれが恋心と言ってしまえば、そういうことだ
結構帽子ひとつで大胆になり
次々なんとなく熱い気分が湧き上がるのだ
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