渡辺さんの俳句傑作選






2012年 5月の俳句





菜の花の海へ投ずる野球帽
           菜の花の咲く季節。
                           ようやく冬の寒さの呪縛から抜け出るころ・・・。
                     とにかく多少生暖かくなった風でも、
             寒いと感じて身構える。
                           なかなかそれが春の風と体は認識しない・・・。
                  いや認識しようとする気持ちと、
              感覚が一致しないのだ。
                季節の変わり目というのは、
                 常に矛盾に満ちているものだ。
                 特に冬から春への移行には、
                     人間の防御本能が強く働く気がする。
                この気温には騙されないぞ、
                        というどこか穿った感覚で身構えてしまう。
                          さわやかに体が春の空気感を受け入れるのが、
               ちょうど菜の花の咲くころだ。
                         そしてそこで大きく気分を入れ替える儀式が、
            あっていいことになる。
                       大海原へ自分の小さな存在感を乗せて、
           野球帽を投ずる・・・。
               冬から春へそして夏へ・・・。








旧仮名のガリヤ戦記や鳥帰る     
                            「来た、見た、勝った」の超短い手紙で有名な、
                       ジュリアス・シーザーのガリアでの勝利。
                            ガリアというのは今のフランスにあたる地域だ。
             この手紙の内容だと、
                             赤子の手をひねるように勝った印象を受けるが、
                 実際は倍する敵との戦いで、
                   かなり厳しい勝利だったようだ。
              そのガリアでの戦いを、
                          シーザー本人が書いたものがガリア戦記だ。
                       古典の著作としては傑作の誉れ高い。
                       歴史に名を残すような人物というのは、
               どこもかしこも違うのだ。
                                将軍としても、政治家としてもプレイボーイとしてもだ。
                   結果的に織田信長ではないが、
                    志半ばで暗殺されてしまった・・・。
                 この名著はもちろん昔から、
                     何度も版を重ねて出版されている。
                          現代文に直されて今も出版されているのだ。
                しかし、こういう古典物は、
            現代文で読むよりも、
                                少し昔のちょっと古臭いといわれる文体で読んだ方が、
                            より味わい深いという向きも一翼をなしている。
                      現状から戻ってみるのも一興かと・・・。









就活の娘の座談更衣
                                リーマンショック以来若者の就職は厳しさを増す一方。
                             学校を無事卒業しても仕事がないという状況だ。
                        しかし、最近は仕事がないといいながら、
                           片方で離職するというパターンが増えていて、
                          5月以降第二就活というのが出てきている。
              せっかく就職ができても、
                      やめてしまうという若者が増えている。
                 就職できない若者の問題と、
                       就職してもやめてしまう若者の問題は、
                      全く別次元で存在してるのが現代だ。
                      大学を卒業する前に就職が決まって、
                            年が明ければ卒業旅行を派手に執り行うという、
             なんとも極楽な状況は、
                    今はほとんど姿を消しているようだ。
                        就職が家庭のテーブルで深刻さを増して、
                                語られるという光景も以前はなかったかもしれない・・・。
                            それだけ社会の器が大きかったということだろう。
                          就活の話題がテーブルに乗る時間が長くなり、
               第二就活の話が出てくると、
                       さらに長くなって6月まで引っ張るようだ。
                       いまや就活も長〜い話になっているのだ。








訥弁の上司の誘い春の夜
                            少ししゃべる言葉のはっきりしない人との会話は、
                   どっちにしても神経を使うものだ。
                      相手は普通にしゃべってるつもりでも、
                       受け手として何言ってるのかわからない、
         ということがある。
                  わからなくても会話である以上、
                何か言わなければならない。
                       相手の言うことをヤマ勘で半分判断して、
                     まあ、当たり障りなく答えるわけだが、
                  行った後での相手の反応もまた、
           神経を使うところだ。
                     会話の終わりころにはぐったり疲れて、
                        作り笑いも三分の一ほどはひきつっている。
                         それでも付き合いとなると結構頑張るものだ。
                            これが上司となると気の使い方は半端でなくなる。
                   なに言ってるのかわからない中で、
                     的確な返事をしなくてはならない・・・。
                 その状態が一年に一回二回は、
                  まだ正常に対処する気力がある。
                    しかし、冬も終わり春の声を聞いて、
                気分が浮き立っているときに、
                     こういう上司とのお付き合いとなると、
                                 ズ〜ンと体の中心に鉛がぶら下がったような状態になる。
                         お気の毒状態がいきなり出現するわけだ・・・。








車イス試乗する母陽炎えり
                    お年寄りのさらに高齢化が進むと、
                             足腰に故障が出てくるのは当然といえば当然だ。
                               この車椅子も単純に一つの種類があるわけではなく、
                   用途別にいろんなタイプがある。
                                わかりやすいのはパラリンピックなどで使われる車椅子。
                        これはもう一般のものとは全く別構造だ。
                       それも競技別にまたいろいろあるようだ。
                 金メダルがかかっているから、
                          それはかなりシビアなものになっていると思う。
                    一般用でもこれはピンキリのようだ。
                          ピンキリといっても値段ばかりのことでもない。
                            素材から重量、構造まで結構多岐に及んでいる。
                       見た目同じようでも結構違いはあるのだ。
                                ある年齢に達して不自由になれば車イスの出番となる。
                この場合は母親ということだ。
                            いよいよ車椅子となってどれにするかの試乗りだ。
                              座るのを手伝いながらも足腰は定まらない状態・・・。
                          揺れてる状態を座らせることによって固定する。
                        はたして何が決め手になるのだろうか・・・。
                   それは揺れる状態が解消されれば、
                     あまり問題はないのかもしれない・・・。







主催者吟

飛び交えるツバメや羽のぴんと張り

枝に鳴く子雀飛ばず雨もよい

降る雨にアジサイ海を映しけり

電話より懐かしき声つつじ咲く

そろり吹く風に離れる絮ひとつ




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