渡辺さんの俳句傑作選









2005年

2月の俳句





着膨れて 耳まで遠く なりにけり
                 
最近は暖冬傾向が続いており
                                        冬になってもホントに凍えるようなという日はそれほどはなくなった
                                   一月も終わり2月に入れば本格的な冬だということになるが
                              それでもキーンという感じの日は、あっても続かない
                                  しかし、それでもそういう日というのは結構こたえるもんで
                     身につけるものが一枚二枚多くなる
                               しかし、最近の若者は薄着でダウンジャケットの下は
                        Tシャツ一枚なんてことも結構あるらしい
                               エベレストに登った上下のシャツを着ているわが身が
                 なんとも寂しくなるこのごろだ
                                           おまけにそういう若者のしゃべっている会話の言葉がほとんど分からない
                          コリャ耳にまで、よる年波に寄りきられたかと
                  思わず視線が下を向くのである



野良猫の 集会場や 雪もよい
                                 わが住む町の集会場の裏を住みかにしている猫には
                      どうも飼い主は最初からいないようで
                  生活態度はなかなかたくましい
                        毎日の食に事欠いたのを見たことがない
                          こちらが事欠きそうな昨今の事情を考えると
                            見習わなければいけないと思うこともしばしばだ
                           しかし、小雪が舞って足の指の凍るような日に
                   じっとうずくまっている姿を見ると
                   なにやら厳しい気分にさせられる
                            集会場の屋根に目を向けて、そこだけ見ていると
                        雪の舞う風情はまんざら悪いもんではない
                              下と上の風情の極端な違いは複雑ですなー・・・・・・・



老猫の 幽かな寝息 冬銀河

                   
我が家にはいつからか正確に認識できない
                 なんとも長生きな猫が住みついている
                           あんまり長いと子供とどちらが先だったかパッと出てこない
                                 直近の15年位の記憶がいまいち怪しくなってきたせいだろうか・・・・・・・
                   それほど長生きの猫がいるということだが
               その猫が寒い夜のストーブの横で
                気持ちよさそうに目をつぶっている
                        その寝顔にはこちらも平和な気分にさせられるのだが
          どうも気にするたびに
                   呼吸が弱々しくなっているような気がする
                           真冬の夜の冴え返った空にチラチラ瞬く星の帯を見ていると
              そこが、この猫の天国への道で
                トボトボ歩いていく姿が見えてくる
                         しかし、その後ろに猫の背に視線を落としてついていく
                    自分の姿が見えたりすると思わずゾッとする




帝国ホテル 猫も杓子も バレンタイン
                  バレンタインが近づいている
             最近はめっきり少なくなった
                           義理チョコの数を数えるのが億劫になってきた・・・・・・
                     帝国ホテルといえば天下無双の名門ホテルだが
                              まあ、義理チョコとは縁のないような人たち集まる場所かと思えば
       さにあらず!!
                   最上階の人からお茶だけ飲みに来る人まで
                           チョコレートがいくつ集まったかの話題で盛り上がっている
               この横並びが当世いいんだろうな





平成の 子の嬌声や 雪礫
                          平成という年号も今年で17年が過ぎた
            平成という年号を読み上げた

                              今は亡き小渕首相の姿がついこの間という印象だ
                             しかし、この歳に産まれた子はすでに16歳になる
                                自分では自分自身が変わっていないとも思っているが
                                平成という年号が始まった頃には若い娘たちの交わす
                       甲高い声の会話に元気をもらっていた
               その同じ年頃の娘の声が
                                 今や強い風にあおられて顔面に容赦なくぶつかってくる
                   硬く細かい雪の粒のようだ・・・・・
                                これが17年過ぎたということの証拠というものだろうか
                         人生、第四コーナーを曲がったということか


         
       
        


冬凪や 鳥羽一郎の 男皺
                           冬になれば毎日風の強い日が続く北の港
                 港に限らず北の町は風が強く
              雪と寒さの厳しい土地だ
                            口を一文字に結んで黙々と仕事を続ける男たち
                                          口元の厳しさに、ついつい意味もなく笑顔を作って挨拶をしてしまう
                           そんな北国の一日、突然風が止まる日がある
                                        そういう日には、うつむき加減の男たちの顔がまっすぐ正面を見る
                                    その顔に刻まれた皺が、歌手の鳥羽一郎の皺によく似ている
                                        年輪を重ねていい皺の感じになったと最近テレビで見ると良く思う
                           鳥羽一郎自身も北国の出身という事だろうか
                       その皺で北国の物語を語っているようだ




 裸木の 自己主張あり 坂の町
                 葉がすっかり落ちてしまって
                                枝振りを冬空にさらしている木が一本坂の途中にある
                                          伸びすぎた枝は切られてなんだか少し前より小ぶりになった気がする
                                           しかし、この木はわが町の中ではここを通る人のいい目印になっている
                     特別何を意識してるわけではないが
                   電車の発車時刻に間にあうには
                         どのくらいの時間で通り過ぎないとダメとか
                 疲れ果てて坂ノ下まで来ると
                          あの木を越えると目と鼻の先だと元気を出す
                           通り過ぎる人の中に占めたこの木の存在感は
            かなり大きいといえる
                              人間的にいえばアクの強い持ち味ということだろう







地雷なき 国に生まれて 恋埋める
         
                 カンボジアを代表に内戦のあった国には地雷の恐怖が常にあり
              目の前が自分の土地でありながら
             まったく近づくことは出来ずに
                           一本だけ確保された生活用道路からただ眺めているだけ・・・・・・・
                        そういう中での実質的な危険を身近なものとしての日常
                   かたや地雷などは見たこともない国での生活
                        しかし、精神的危険度は実は同じなのではないかと思う
              この国で地雷を踏むことはないが
                    危険な恋心の導火線を踏む可能性は大いにある
                     これは命に別状がないかどうかも実は分からない
               地雷という目に見える危険はないが
              それ以上に破滅を呼ぶ危険はある
                          そう考えると危険度数はたいして変わらないような気がする







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