渡辺さんの俳句傑作選






2013年 3月の俳句





聞き流すシェフの口上菜種梅雨
              春も弥生に突入すると
                         何気に気分が浮き立ってくる・・・もんだと、
              誰しも言ってみたくなる。
                     そういうふうに言葉にしてみないと、
                    春という季節感が出てこないのだ。
                          花粉症で春とは気分的に思いたくない・・・。
                          鼻水のイメージだけで春を語りたくないのだ。
                              春になって食べようと積極的になるのがイタリアン。
                    まあ、冬でも食べてはいるのだが、
                         春の陽気になんかマッチするのがこれ・・・。
                                 やはり明るいイメージがイタリアにあるせいだろうか・・・。
                               今や経済危機の国という認識が強くなってしまった。
                    あの青い空の国が残念な状態だ。
                             こういう食事にはシェフの前口上があったりする。
                    まあ、普通に食べる人にとっては、
                       あまり聞いても頭に入る口上でもない。
                           とにかく早く食べたいという気持ちが一番だ。
          さっと聞き流して、
                         さあっ!というシチュエーションでいきたい。
                       しかし、こういう時の口上は長いのだ。
                                時間ではなく目の前に置かれた料理と自分の距離が、
                  一定の間から近づかない・・・。
                  この間が気分をじっとりさせる。
                 お願いだから聞き流すという、
                    言葉のニュアンスのままの口上に、
               まとめてほしいものだ・・・。








    銀座ゆく歌舞伎役者や春嵐     
                新歌舞伎座のこけら落し。
                    今回の新装で五代目になるという。
             以前の写真と比べても、
                         それほど大きく外観が変わったわけではない。
                           大きく変わったのは背後にビルができたことだ。
                       これが何となくしっくりこない気分が残る。
                             ま、ニュースではだれも問題にはしていないが・・・。
                            っていうか、触れたくないというのが本音か・・・。
                   新歌舞伎座こけら落しを記念して、
                        歌舞伎役者が大挙して銀座に繰り出した。
                テレビで見慣れた顔もあれば、
                こうんな人いたの的な人まで、
                           かなりの人数がゆっくり銀座の通りを歩いていた。
                    回りに集まった人の数もすごい数だ。
                             この役者さんに対して掛け声をかける人たちがいて。
                          雨の中何度も回り道をしては声をかけていた。
                         「成田や、中村屋」などと声をかけるあれ・・・。
                         声が嗄れないかと思うほど大声で声をかける。
                        滑って転ばないか見ていてつい心配になる。
         あいにくの雨・・・。
                     雨は歌舞伎にとって縁起がいいという。
                こじつけたような理由だった。
                  なんでも良しとしてしまわないと、
             成り立たないんだろうな。
                 雨に不運をかこつ人がいても、
              あれだけの人数がいれば、
                   みんなで渡れば怖くないの世界だ。
                      こちとら一人だと雨をまともにかぶって、
                  はいそれまでよぉ…ってことにも。








ソプラノのアリア劈く春愁
                  オペラといえばベルカント唱
                         かの歌姫マリア・カラスが思い浮かぶ・・・。
                          大舞台で響き渡る声はなんとも迫力がある。
                              オペラで有名となるとパッと浮かぶのが蝶々夫人。
             プッチーニの悲劇だ。
                           次に思い浮かぶいや知ったかぶりで出すのが、
            ジョゼッペ・ベルディ。
                         この作曲家のオペラはスケールが大きい。
                               それ以上にすさましいのがワーグナーのオペラだろう。
                          初めから終わるまで三日を要するのもある。
                           最後のほうになると最初のことは覚えてない。
                            若いうちに見ないとなかなか大変なものがある。
                            あまり日本では上演される機会は少ないようだ。
                              忙しい日本人にはチト受けがもう一つになりそうだ。
                               余生を楽しむ人だけを対象に上演はできないだろう。
                     やはりオペラの花といえばソプラノだ。
                        クライマックスでは最高のアピールがある。
                   しかし、これは多少素養がないと、
                      単なる断末魔のようにしか聞こえない。
               ソプラノでも種類があって、
                          リリコと呼ばれるソプラノはまだ可愛げがある。
                ドラマちっくソプラノになると、
                             劇場の天井が落ちてくるんじゃないかという迫力だ。
                                 その迫力には春愁など言ってられる場合じゃないのだ・・・。
               憂鬱も何も吹っ飛ばされる。









昭和史を訪ねて歩く春の旅
                         春になってテレビの番組の改編期になると、
               いやに増えるのが旅番組。
                   なぜかリポーターは女優が多い。
                                  若干とうがたってる女優さんが多いのはなぜだろうか・・・。
                      温泉巡りの旅が多いせいだろうか・・・。
                        だいたい温泉宿とその料理が紹介されて、
                   おいしいというところを強調する。
                        そういう本音とも嘘ともつかない表情が、
                      うまいってこともあるのかも知れない。
                    男優じゃうまいとか何とか言っても、
                 なんかシラッとしてしまう・・・。
                   要するに見ててつまらんのだな。
                もう一つよくある旅企画に、
                     各地の史跡を訪ねるというのがある。
                       こういうたびになるとなぜか男優が多い。
                           それも若干、苦みばしったような渋めの男優だ。
                    これがまたなぜか女優は少ない・・・。
                            理由はイチイチ書くまでもないのかもしれない・・・。
                      史跡を訪ねる旅は春と秋に限るようだ。
                           夏冬だと歩くのがつらいってことが理由のようだ。
                          真夏の猛暑に歩く旅は見る気はしないものだ。
                               昭和の歴史は比較的新しいから見どころ満載だと思う。
                    寒からず暑からずがいいだろう・・・。








紅梅や質屋の蔵の壁はがれ
                         最近、質屋という言葉が聞かれなくなった。
                      自分の親の代の話にはよく出てきた。
                     終戦直後などみなお金がないから、
                              着物をよく質屋に持って行ったというたぐいの話だ。
                   質屋良いとこ一度はおいで・・・、
                      などという話しはもちろんないが・・・。
                  ところが我々の会話の中には、
                       もう質屋という言葉はほぼ出てこない。
                    このままだとそのうち死語の類に、
                      入ってしまうのではないだろうか・・・。
                             質屋ってなんだと子供に聞かれそうな雰囲気だ。
          この句を読んで、
                              まず質屋を辞書で引く子供がいてもおかしくない。
                                そのくらい今の子供たちとの会話に質屋は出てこない。
                             質屋を利用する人がいなくなったのだろうか・・・。
            デフレ不況と言って、
                          皆貧しくなったという話が巷にあふれている。
                              その割には質屋に出入りしたという話は聞かない。
                  超高級品を買い替えのために、
                            質屋に持っていくというのは番組でやっている。
                               デフレで貧しくなって質屋というの話はどこにもない。
                                   貧しくなるといきなりホームレスになってしまうからだろうか。
                     質屋に持っていくネタもないか・・・。
                            今の時代質屋はそう儲からないのだろうか・・・。
                         街の質屋の話題などはまず出てこないから、
                 不況業種なのかもわからない。
                   質屋の壁が崩れてるのを見れば、
                               儲かってないんだろうなという判断で完結してしまう。
                       しかも紅梅があだ花になってしまっては、
                        その職業の方たちはまずいんだろうな・・・。






句会員の句


お雛様忘れたころに出し飾る

お雛様色あせ着物過ぎし日々

飾り終え想いもはるかひな祭り

雛壇をかたずけている侘びしさよ

北風に富士くっきりと心澄み





主催者吟


鍋開けて曇るメガネや笑い声

春光やまぶしさ増して戸の隙間

寒風やポケットの奥さくら貝

春の海連絡船に光る波

モクレンにモーツァルトの小夜曲




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