渡辺さんの俳句傑作選






2013年 11月の俳句





栞さす六法全書黒葡萄
                 今歳もいい加減重ねてきて、
                           思えば遠くに来たもんだなどと思いにふける秋。
                 物思いにふける秋でもあれば、
                           いろいろ心配事を抱えるのも年を重ねてくると、
             ものが大きくなってくる。
                      ほとんど遺言などということも出てくる。
                         お持ちになるお宝が大きければ大きいほど、
                       思案に暮れて答えも出ない秋の夕暮…。
        いっそ寄付…、
                        そんな気にはなかなかなれるもんでもない。
               もちろん遺言にかかわらず、
                       会社を清算するなんて大っきな話もある。
          ほんとに身近だと、
                   隣との境目をどこに置くかという、
                   これまた解決できないこともある。
                        そうなるやはり法律から入らざるを得ない。
                     いくら言葉で言ってもこういうことは、
               物言えば唇寒しの部類だ。
              やはりまず法律だろう…。
                        これは明文化されてるからはっきりしてる。
                               それでも専門の弁護士という職業があるくらいだから、
                            これも解釈次第でいいように使えてしまうものだ。
     秋の夜長、
                        じとっと関係するページに栞を挟みながら、
                目薬をさすのもいいのかも…。

   

 





   電飾の並木道から冬に入る     
                      今年は秋という季節があったのか…。
                怒ってもしょうがないのだが、
                  ほんとに秋らしい日というのは、
                              片手ぐらいの日数しかなかったのではないだろうか。
                              10月が秋という季節のメインということだと思うが、
                毎週台風が来てる状態だと、
                    そんな秋らしい雰囲気は全くない。
          天気予報になると、
                         台風何号が発生という言葉がまず出てくる。
         それが毎週だ…。
                          結局スカッとしたさわやかな秋晴れもほぼない。
                 また今年の台風は過ぎた後の、
                     台風一過というのもなかった気がする。
                               いじけたような女々しい台風ばかりだったということだ。
                            殴ったら殴られたほうはスカッとしてほしいわけだ。
                 台風がようやく収まったとなると、
                もう冬の雰囲気が迫っていた。
                   一気にハロウィンということになり、
                             それが終わるとクリスマスのイルミネーションがともる。
                      そこからはもうコマーシャルも雪景色…。
                        冬の服装の若い子が出てくるコマーシャルだ。
                               やたら早くなったクリスマスのイルミネーションがともると、
                   そこからはもう秋なんて言葉はなく、
               冬という季節感一色になる。
                 冬の到来が嫌に早くなるのだ…。








遺言を考えながらラフランス
                   今年も年の瀬が否応なく到来。
                        何回くらい年の瀬を迎えているのか・・・。
                    数えたことも考えたこともないが、
                 なんとなく人生の年の瀬は、
                     そろそろ感じる頃合いなのかも・・・。
                        まだ早いと思う人、いよいよかと思う人、
                           今だなといきなりせっぱつまった感じで思う人。
                      まあいろいろ千差万別なのかな・・・。
                         人間差し迫ってきて考えることというのは、
                          まあ、人によっていろいろあると思いますが、
                               遺言というのが近年クローズアップされているようだ。
                                それに関する本が結構本屋さんには並んでいたりする。
                        以前にはあまり見なかった本ではあるが、
                       やはりお宝を持つ老人が増えたせいか、
                                  遺言というのはかなり意味を持つものになっているようだ。
                             実際遺言を書こうとしてまず何を考えるのか・・・。
                           自分の家族の顔を思い浮かべてどうするかと、
              想いを巡らせるのだろう。
                 どうお宝を配分するのか・・・。
                     今までの人生の中でのかかわりなど、
                                  一つ一つ細かくあるいはネチネチと思い浮かべるのだろう。
                    結構陰険な作業なのかもしれない。
                       ラフランスのなめらかで甘いイメージと、
                             遺言という生臭いジャラッとしたイメージのギャップ。
                           これが一緒に出てくるところに味わいがあるね。
                 こういうギャップを味わうのも、
                     ちょっと前衛的な楽しみなのかも・・・。








快眠も快便もなく秋惜しむ
                       なんとなく猛暑の夏を無事切り抜けて、
                         アーよかったと思えるような秋晴れもなく、
                     猛暑を我慢した充実感もない季節。
                     秋という季節感がどこにあったのか、
                       誰に聞いても何となく言葉を濁す・・・。
                                毎週台風と被害にテレビのニュースが占領された状態。
                             その映像がこれまた若干長めになってきた人生で、
                      見たこともないような映像が出てくる。
                         こんな映像今まで見たことあったかな・・・。
                         唖然とするようなものが映し出されるのだ。
                                たまに中国の船が来たというのが挟まることもあるが、
                                   まあ、台風が来た、また発生したという話がほとんどだった。
                     夜が若干長くなって月を眺めながら、
         ほっとする季節。
                   猛暑を乗り越えてよかったという、
                安堵感を楽しむ季節が秋だ。
             それがテレビをつけても、
                 人に会っても台風の被害とか、
              夏日の最遅の記録だとか、
                        マイナスイメージを引っ張る話題ばかり・・・。
                 さわやかな気分に浸る間もなく、
                  秋という季節は去って行った・・・。
                         快眠快便、このさわやかな気分はついになく、
                     冬が一気に押し寄せてしまった・・・(泣
 







一心に写経にひたる生身魂
                       最近、本屋で写経をする本を見つけた。
                          薄く書いてある文字をなぞって書いていくと、
                          一冊の自分の写経本ができるというものだ。
                                   それを見ながら写経って流行ってるんだという認識を持った。
                          それ以外にも似たようなものを見た気がする。
             今まで生きてきた中でも、
                    写経の本が店頭の目立つところに、
             置かれているというのは、
                      まあ、新たな経験と言えるかもしれない。
                 若干人生も長めになってくると、
                              いろいろな物珍しいものを見たり聞いたりするものだ。
            お経などというものは、
                           お寺でしか縁を持てないものだと思っていた・・・。
                    認識が古いといえるのかもしれない。
                           これも高齢化という世相の中での出来事なのか、
                          いや、殺伐とした経済状態の日本に生まれた、
                新しい精神の現れなのか・・・。
                        ま、一言では語れないなんとも言えない・・・。
                       人生の終盤にあの世と自分を繋ぐお経を、
                       じっくりと向き合った状態で写し取っていく。
                内容が分かるか分からないか、
                    そんなことは気にしなくてもいいようだ。
               雑念を捨て頭の中を空にして、
                 薄く書かれた文字をなぞってみる。
                  結構心静かになれる気がする・・・。





句会員の句


稽古日の雨に足引く老いて秋

狭き庭紅葉彩る侘び住い

千両と万両譲らぬ紅比べ




主催者吟


虫食いの破魔矢手に取る帰省前

紅葉の一葉を染めて日の出かな

花びらの水に虫浮く雨あがり

沁みてゆく酒臍までも秋の夜

路地裏の匂いに偲ぶ秋夕




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