渡辺さんの俳句傑作選










10月の俳句





一片の 足りぬパズルよ 神の留守
                          ジグゾーパズルは、まず四隅から埋めていく、
                            人間は、生れ落ちたときに四隅は埋まっている。
                           生まれた空間がすべてだからということもある、
                  これはみんな同じだろう・・・・・。
                                 しかし、縦の線、横の線までは子供のうちに埋められる。
                            とにかくまっすぐな線が引かれているわけだから、
                       そこをたどるだけでたいした問題はない。
                                そして広い手探りなスペースに並べはじめたところから、
                   一人ひとり大きな違いが出てくる、
                           最後の一片までこれは止めることが出来ない!
                そして最後の一片になった時、
          ぴったりはまる人と、
                               残念ながら途中で最後の一片をなくしてしまった人が、
              一堂に会することになる。
                   そして、神がいるのかいないのか、
                  大いに語る場となるだろう・・・・・。








年下の 女の上司 野分かな

          
いつの時代にも、
                優秀なる女性はいるもので、
                             現代のように男女同等の教育システムの中では、
                                 男性をしのいで優秀な女性は、いくらでもいることになり、
                           社会の中で、いつのまにか立場が逆転・・・・・。
                             徐々に歳若い女性を見上げる立場になっていて、
                神妙にその話を聞いている。
               年下の女性上司となれば、
              誰かまわず甲高い声であり
                  言葉も早く、声量も大いにある!
                           その若き女性上司を部屋の外に見送った後の、
                            シ〜〜〜〜ンと静まった部屋の止まった空気が、
                              野分の後の無口な雰囲気にそっくりということ・・・・。






双子のせ ベビーカー行き 秋立てり
                           
一人でも大変なのに二人いっぺんにとは・・・・、
              いかにも大変に見える。
                                  双子を乗せてベビーカーを押している若夫婦を見かけると、
                         「大変でしょう」と思わず声を掛けたくなる。
                  大きなお世話ではあるが・・・・・。
                             しかし、そんな軽口も飛ばしたくなるようになると、
                   空気は乾いてきて、空も高くなり、
            夏は徐々に去りゆき、
                        秋が前から通り過ぎようとしている時だ。
         通り過ぎてゆく、
          双子の赤ちゃんも
                         その愛らしさ、さわやかさも確実に二倍だ。







留守番を すすんでする子 天の川

                               みんな出かけるなかで一人だけ留守番をするという、
                  突然!殊勝なことを言う・・・・。
                                  なんだかちょっとその間の雰囲気に合わない感じを持って、
              出かけるわけだが・・・・。
                      あのいつもとは違った目の色を思うと、
                                 すでに心は、外の世界に巣立とうとしているのかと思う。
                               つかずは離れずしながら自分の世界を作ってしまって、
                                       大空に流れる天の川に自分の乗る船を作っているのかもしれない。
             その船のスペースには、
                          もはやわれわれは乗ることが出来ない・・・・。
                 それをこちらに分からせていく
                 そんな一言なのかもしれない。







満月や 五臓六腑は 瑕疵だらけ

              
空気はいよいよ乾いて、
            空はいよいよ高い!
                              秋の深まりと共に食欲もますますということである。
                    だいたい誰でも一緒のところだが、
                   ある程度の年齢を重ねてくると、
                無事というのはあまりなく、
                       だいたい体もあちこち故障が出てくる。
                月も冴えて満月となれば、
          その光は冷たく、
                         脳天からつま先までスッと通り過ぎていく。
               レントゲンの光のように、
                        じわ〜〜〜っと五臓六腑に染みわたり、
                            なんとなく故障箇所に沁みる疼きをおぼえさせ、
                     おいしい看板の前で立ち止まれば、
                    軽くやばいことを自覚させる・・・・。
             立ち去るのみだ・・・・・。







傍らに 立志伝おき 秋刀魚焼く
                 歴史上の偉人というのは、
                 なぜ、こうもうまく要所要所、
                           適材適所に配置されるのだろうと疑問に思う。
                               後からみるからそういうことになるのかもしれないが、
                    世の中の数あまたの会社を見ると、
                             どうしてこう無関係に人物を配属するのかと思う。
                特別考えられた様子もない。
                 歴史的人物の伝記を読むと、
                         だいたい不遇な場合がこれまたほとんどだ。
                                たまに恵まれて上から出発すると、織田信長のように、
                  途中で暗殺されてしまったりで、
                 なんだかいまひとつだ・・・・・。
                       ま、秋の休日はごろっとひっくり返って、
                            ながらで、そんな人たちの立志伝を読みながら、
                             夕食に秋刀魚を焼くのが一番というところだ・・・・。







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