渡辺さんの俳句傑作選








5月の俳句





美少女の猿の物まね山笑う
                            動物園に通うのにも良い季節になってきました。
                                 しかし、今年の5月は日照時間がほんの少しです・・・・。
                       サル山の猿はそんなことはお構いなし。
                  ボスざるを中心に結束は固い。
                            猿山といえば高崎山なんかが有名らしい・・・・。
                            この時期になってくると猿のしぐさを真似して、
              笑う子供のグループが、
                       入れ替わり立ち代りサル山に張り付く。
                            そういう中で悪がきだと納得するものがあるが、
                                  イヤに器量のいい女の子が思いっきり猿の真似をすると、
                              その意外性に、いきなりハッ!として笑いたくなる。
                            猿の群れを抱いている山も同じことだろう・・・・。
                    吹き出した拍子に新芽も吹いて、
                     山全体がまぶしい新緑に覆われる。







ほうれん草机に古りし母子手帳
             新鮮なほうれん草は、
                        まず、ゆでて適当な長さに切りそろえて、
                          しょうゆをつけて食べるのが一番美味しい !
                 新鮮というのは色艶も良く、
                  見るからにみずみずしい・・・・。
                    古い母子手帳など目に留まると、
                               手垢もついてどんよりした表紙がなんだか印象的だ。
                         子供が成長してきた歴史を感じると共に、
             自分も古くなってきて、
                           この母子手帳のような雰囲気に変わってくる。
                      母子手帳も自分もなんら変わりなく、
            子供が輝き始めると、
                    古くなって徐々に忘れ去られて、
                                記憶も薄らいでいくような状態になるのだろう・・・・。







年会費収めぬままやシクラメン
               春になるといつ入ったか、
                    思い出せないような団体からの、
              年会費の通知が来る。
                            忘れていたりすると結構鋭い調子で書かれた、
                督促状が舞い込んでくる。
                   そんなに強く言わなくても・・・・。
                                というのは、こちらの勝手な言い分ではあるけれども、
                        小額高額にかかわらず面倒な気がする。
                         ほっぽり出しておきたい誘惑がある・・・・。
                       まあ、そうもいかずに気を取り直して、
                       玄関先で振込用紙に書き込み始める。
            そういうところには、
                    シクラメンかなんかが置いてあり、
            その花の雰囲気で、
                         イライラを何とか抑えてくれたりしてくれる。
                 シクラメンが置いてあるのは、
                       そういう効果を見据えてのことか・・・・。
                いやはやというところである






ドジョウ鍋祖父の胡坐の中に猫
                  今の時代、あまりドジョウ鍋を、
                             家で普通に食卓に出すというのは少ないだろう。
                  しかし、われわれの前の時代、
                      戦前派の人たちにとってのドジョウは、
                       重要な蛋白源だったという話を聞いた。
                 何しろいろいろ乏しい時代、
                             小鳥も霞み網かなんかで捕まえて食べたという。
                      これも重要な蛋白源だったのだろう。
                   今は、霞み網は禁止されている。
                   小鳥も数が減っているのだ・・・・。
                         そういう祖父がドジョウ鍋を食べ始めると、
                              猫がしっかり胡坐の中に納まって目をつぶっている。
                          ドジョウ鍋を食べ始めた祖父の胡坐の中が、
                             次第に温まってきて心地よくなるからだろう・・・・。







タンポポの絮越えてゆく事故現場
                             去年の5月に関西で大きな列車事故があった・・・・。
                  なんとも痛ましい事故だと思う。
                        今もってその全面解決はないということだ。
                        そう簡単に割り切れるものではないだろう。
                        しかし、月日の流れはまったく変わりなく、
                    またタンポポの季節はめぐってきて、
                          あちこちに鮮やかな黄色い花を咲かせている。
                         事故の瞬間の時間を通り過ぎ、綿毛となり、
                     何変わりなく事故現場も風に乗って、
             空に舞い上がっていく。
                 事故で犠牲になった人たちの、
                       魂の案内役だったのかもしれない・・・・。
                                 今は過ぎたことへの世の中の忘却を象徴しているように、
                         風に乗っていずこかへ飛び去っていく・・・・。







主催者吟

潮干狩の貝数えつつ居眠る子

紫陽花の咲く店先でコケており

はるかなる機影を追うて五月晴れ




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