渡辺さんの俳句傑作選








10月の俳句






毛糸玉子猫に与う体育の日
             
子猫に毛玉を投げると、
                         勢いよく飛びついて毛玉を相手に動き回る。
                 見ているとすばらしいファイト!
                       格闘家の小川の「ハッスル!ハッスル!」を、
                    そのまま送りたくなるような闘志で、
             毛玉相手に戦っている。
                       体育の日に限らず毎日の日課にすれば、
              猫もたくましくなりそうだ。
                   食べ過ぎ気味のお腹のあたりも、
              引き締まってくるだろう。
            振り返って自分・・・・。
                            誰か猫の毛玉くらいにファイトを燃やせるものを、
                投げてくれないかなー・・・・。
                                 おっさんとなりお腹のあたりが重くなってしまった状態だと、
                       誰も何も投げてはくれないのかも・・・・。
                          結局、体育の日とはいってもごろ寝で終わり。








秋日傘たたむ明暦大火の碑
                       夏が過ぎて朝晩は涼しくなったものの、
                  日中はまだまだ暑い日が多い。
                            特に亜熱帯性気候になってしまったかのような、
              現代の日本の気候だと、
                                日中はかなりの紫外線を感じさせるような太陽の強さ。
                              真夏のじりじり肌を焼くような感じよりは多少・・・・、
                         ま、ほんとに多少ましになってきてはいる。
                          しかし、やはり日傘は手放すことは出来ず、
                日傘をさしながら歩く・・・・。
       時は、江戸!
                                明暦の世を焼き焦がす大火があったという碑文がある。
                        江戸の町のほとんどを焼き酸くした大火。
                       皮膚を焼かれて死んでいく人たち・・・・。
                  日傘をたたんで見入っていると、
                    直射日光容赦なく皮膚を焼く・・・・。
                        暑いとはいっても、しょせん文字が違う!
         大火は熱いだ!







肋骨の輪郭露わ愁思かな
                         
涼しくなって食欲の秋といわれる季節。
                        夏に大量に食べられなかった恨みを、
             一気にはらすべく、
                           回転寿司の皿を10皿積み上げたい・・・・。
                                  しかし、夏の間に小さくなった胃には収まらない・・・・。
              希望だけ前にいって、
                          若い連中の皿の積み上げ方に比べると、
                                 スローモーションを見ているようなこちらの手の動き。
                         子供のころの化学実験のテレビ番組で、
                                 よくスローモーションにして実験結果を見せてくれた。
                        早送りとスローモーション違いだ・・・・。
                                 むしろ夏の間に皮膚のこけた肋骨を楽器に見立てて、
              若い連中と比べれば、
                           これは必ずこちらのほうが楽器らしく見える。
                      まず、骨の輪郭がきっちりしている。
              銘器の風格さえある。
                        年輪を重ねた音の鳴りの良さがある!
                           これでなにを奏でるか悩むこのごろだ・・・・。
 








文化の日怠惰な犬に意見する
                        
文化の日といえば貴重な祭日ではあるが
                              日ごろから文化とはあまり縁のない生活のせいか、
                          文化的なことはまずなにも浮かばない・・・・。
                      テレビの文化の日特集くらいを見る。
                        こういう番組も普段見ることもないから、
                             これだけでも文化の日の意味はあるだろう・・・・。
                     だいたい飼い主がうだうだしてると、
                           飼い犬はそれに輪をかけてうだうだしている。
             文化番組を見た後は、
                          気持ちは文化を愛する人になっているから、
                    横でボーっと寝そべっている犬に、
                            知的なまなざしをするようにと一言いってみる。
                            チラッ!とこちらを見上げる目のなんとも・・・・。
                  怠惰な犬を飼っている方には、
                          この場面の犬のまなざしが想像できると思う







秋光や観音囲む栃木弁
                   
秋の日の刺抜き地蔵の回りには、
                        全国各地から年配の団体さんが訪れる。
                        なんとも賑やかな地方なまりが飛び交う。
                           刺抜き地蔵もあまりいろいろな言葉が出ると、
                            なに言われてるのか判断に苦しむところだろう。
                                   なんだか分からなくてもご利益は平等でなければならない。
                            これは拝まれる側の鉄則といってもいいだろう。
                               今やほとんど石の塊と化しつつある地蔵ではあるが、
                         拝む人たちにはありがたく見えているのだ。
                      ご利益に過不足があってはならない!
                              この外に出ている刺抜き地蔵は実は本物ではない。
                     本物は中にきちんと保存されている。
                        外に出ていて石の塊に化しつつあるのは、
            観音様ということだ。
              まあ、そりゃそうだ・・・・。
                   本物がただの石になっていくのを、
                   ただ見てるわけはいかないだろう。
                 飛び交う地方なまりの中でも、
                 上州かかあ天下には観音様も、
                       傾いた秋の日を浴びてしおらしく見える。








主催者吟


運動会小雨に白線滲みおり

コーヒーを濃くして夜長描く絵かな

拾う石冷えが手につく夕べかな






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