渡辺さんの俳句傑作選








12月の俳句






短日や電波制御の置時計
                 年の瀬も押し詰まってくると、
                昼間もグッと短くなってくる、
                           4:00ともなると思う日がかなり傾いてしまう。
                        夏の日の長さのイメージが残ってるから、
                ドキッとするほど短く感じる。
             これがもし昼と夜とが、
                         完璧に同じ長さの世界で生活してきていて、
                    この状況に突然たたき出されたら、
                             生きていける時間がいやに短くなったと嘆くだろう。
                             何度も時計を見ては確認しなければ気がすまない。
                            これが砂時計、ぜんまい仕掛けの時計であれば、
                    時計が壊れてると自分を肯定して、
                   まだまだ先は長いと言い切れる。
                            しかし、いまや電波で時間を背御する時代・・・・。
                          時計を肯定して日が短くなったと決まったとき、
                              あきらかに自分に自信がなくなるかもしれない・・・・。








降る雪や昭和は長き絵巻物
                      昭和という時代は地獄から天国まで、
                        とにかくバラエティに富んだ時代だと思う。
                     電話もない時代から宇宙まであった。
                  太平洋戦争から受験戦争まで、
                 あらゆる種類の戦争があった。
                昭和の時代は特に長かった。
                             モノト−ンの時代からカラーテレビに移り変わった。
                                  モノトーンの時代はいやに重々しくて世界が狭い感じ・・・・。
                          これがテレビに色がついたとん軽薄になって、
                    画面の視野も広くなった感じ・・・・。
                            しかし、重厚に広くなはらないもんですな・・・・。
                           絵巻物としては表情が面白い時代ではあった。








着膨れた老いでふくらむ午後のバス
                       寒さも一段と増して風も冷たくなった。
                                年の瀬になれば首筋を吹き抜ける風も一段と冷たい。
                              団塊の世代と呼ばれる人たちが定年を迎えてきて、
            街に溢れてきている。
            午前中は犬の散歩。
                  午後は病院に行くバスを待つ。
                    バス停ごとに乗り込んでいく・・・・。
                                年輪を重ねたように着膨れてバスに吸い込まれていく。
                                着膨れた人でいっぱいになったバスの窓を見ていると、
                              バスが縦と横に丸みを帯びて膨れたように見える。
                    しかも人生をも蓄えてきた重さで、
                               エンジン音がけたたましいわりにはスピードも出ない。
                     いきなりゆっくり走っている状況だ。









寒星や弔電文はみな同じ
                           秋風が吹いて太陽に勢いがなくなってくると、
                              人生のゴールに飛び込む人が増えてくるという・・・。
                         空気が乾いてきて風に寒さが増してくると、
              空の色が濃くなってくる。
                    夜空に瞬く星も数を増やしてくる。
                      ゴールテープを切るとみな星になると、
             子供のころ聞かされた。
                      しかし、その瞬きも、大きさも、色も、
                        すべて違って見えているにもかかわらず、
                         読み上げられる弔電の文はみな同じ・・・・。
                    誰もその人が生きてきたことなど、
                     分かりはしいということだろう・・・・。









冬薔薇(フユソウビ)横文字並ぶ飛行船
                 冬の薔薇は色があでやかだ。
                   寒風に吹かれているせいもあり、
                        空気が透明化しているせいもありそうだ。
                     色彩感の乏しい中での自己主張だ。
                 真冬の雲ひとつない青空を、
                    ゆったりと飛行船が浮かんでいる。
                           横文字で大きくコマーシャル文字が並ぶ・・・・。
                            銀色に陽に輝いている機体をくり抜いたように、
                        一文字一文字目立つように並んでいる。
                         地面に足をつけたまま終わる小さな薔薇と、
                               巨体を地上につけたとたんに役目が終わる飛行船と、
                         まったく逆な二つに話を聞いてみたい・・・・。








主催者吟


夜空切る星の行くへや冬木立

熱燗に窓打つ風や闇深し

ギターの音ピンと響いて葛湯かな






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