渡辺さんの俳句傑作選








1月の俳句






脳ドック入る前夜の柚子湯かな
                       今の人間が死ぬ確率が一番高いのが、
                          がん、頭係、心臓係という三つが一番多い。
                        医者も死亡原因がハッキリしないときは、
                    この三つのどれかを言っておけば、
                   だいたい納得が得られるという。
                      伝染病とか事故、戦死という以外は、
                       ほぼこの三つのどれかで決まりだろう。
                           それ相応の歳になると定期検査が入ってくる。
                     年とともにその項目も増えていって、
                         頭の中の具合も調べようということになる。
                          脳ドックというものにお世話になるわけだが、
              これは結構覚悟がいる。
                              医者から何か一言出るかでないかで天国と地獄だ。
                 普通に平たくというのがない。
                  前の日の夜の湯船に浸かって、
                        大丈夫を自分で自分に強要していながら、
                      湯船を出たとたんに弱気が湧き上がり、
                                  風呂のドアを開けるころには諦めでいっぱいになっている。
                        柚子のにおいが鼻に溜まっていることが、
                うっとおしくなりながら・・・・。






デパ地下の試食あれこれ去年今年
                     デパートの地下の食品売り場ほど、
                       人の活気があふれているところもない。
                          売るほうも買うほうもかなり真剣度が高い。
                          毎日の食べ物であるからそれも当然だろう。
               結構試食コーナーがあり、
                 食べていくように招いている。
                   その掛け声もいろいろで面白い。
                            まだ若い娘などなんとなく声も小さくなりがちで、
             伏目がちに言っている。
                          なんとなく食べてあげようかという気持ちで、
           楊枝を持ったりする。
                    これがベテランのおばさんになると、
               まず、掛け声の勢いが違う。
                   見てる方向も手前など見てなくて、
                  結構遠くまで視線がいっている。
                     声も張りがあって迫力がぜんぜん違う。
                     なんだか食べさせられてしまう雰囲気。
                食べ終わって楊枝を捨てた後、
                  愛想笑いまでしてしまったりする。
             お父さんに食べさせても、
                        いまひとつ売り上げに結びつきそうにない。
         ごくろうさま・・・・。








汐留の電飾ともる淑気かな
             昔、大江戸八百八町。
                            あたりが暗くなって店の横に出てくるのは提灯。
                 屋台などにも提灯がかかる。
                   これだけでも大変な目印であり、
                    通りすがりに一杯ということでも、
                 宣伝効果満点だったと思う。
                      夜が暗い時代だから提灯の灯りでも、
                心弾むものがあったと思う。
                     明治時代以降、電灯の時代となる。
               夜の明るい時代の到来。
                       それと同時にお金が回るのが早くなり、
                    財布にとどまる時間が短くなった。
              ピカピカすればするほど、
                          財布からお金が出ていくことを知った人間は、
                            とにかくだれかれ関係なく光らせるようになった。
                    女性が男の財布を開けさせるには、
              輝くのが一番らしい・・・・。
                  かくして改めて電飾を眺めると、
                       違った感慨がわいてくる・・・・かも・・・・。








人日やポケットティッシュまたもらう
                           年の初めというのはとにかく人心静か・・・・。
                 元気に走り回っているのは、
                       干支が変わって元気なイノシシくらい。
                       ホモサピエンスは静かにごろ寝・・・・。
                        初詣に行ってもいやに人が良くなって、
                               おつりの間違えくらいでは文句も出ない・・・・ハズ。
                             イノシシがくたびれてきて動きが鈍くなったころ、
                         入れ替わりのホモサピエンスが動き出す。
                       なんだかいやに静かになってしまって、
                  心清くなりつつあるところで、
              煩悩と総取替え・・・・。
                    人ごみ目指して改札口を抜けて、
                     配られているティッシュをもらうと、
                完全に煩悩に支配されて、
                 自分の所定の場所に座る。
            ティシュを貰う度に、
                              なんかのスイッチを押されているような毎日に戻る








写メールで丸ごと送るどんどの日
                            正月が明けての一つのよびものがどんど焼き。
                       それぞれの家の煩悩の塊となったお札、
                 やたらと持たされて重くなり、
                  紐が切れてしまいそうなお守り。
              一切合財を山と積んで、
                              チャッカマンのような火付けライターで火をつける。
                               何しろ山が大きいからなかなかいっきには燃えない。
              何ヶ所かに火をつける。
                     本格的に燃え出すとこれはすごい!
                          「炎立つ」くらいの勢いで高々と燃え上がる。
                         一年の煩悩がべったりと染み付いたお札。
                           「〜のおかげ」がめいっぱい凝縮されたお守り。
                   これが燃えてるから半端じゃない。
                              こういう炎というのは火事の時ぐらいしかないから、
                誰かにお知らせしたい・・・・。
                                しかし、一言ではとても言い表わせられるものでもない。
                          今や携帯で写真を撮っていっきに送れる時代。
                              見つめているとも、やもやっとしてくるこの気持ちを、
                      ガシャッと撮っていっきに送りたくなる。








主催者吟


どんどの火頬染める子の黒き眉

月光の冴えてや梅の白や赤

紅に染む雲切れ山の枯れ木立

初買いに眼鏡も曇るたぬきソバ






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