渡辺さんの俳句傑作選
12月の俳句
討ち入りの日のデパートのセールかな
討ち入りといえば赤穂浪士。
今や討ち入りという言葉の意味のようになっている。
江戸時代までの武士の世の中で、
討ち入りなどはいて捨てるほどあったはずだが、
今われわれが討ち入りと聞いて思い浮かべるのは、
赤穂浪士の吉良邸討ち入りしかない・・・。
仇討ちといえば堀部安兵衛と高田馬場。
これももうこれしかない!!
広辞苑の討ち入りという意味のところに、
赤穂浪士と入れて、
疑問を持つ人はいないだろう。
討ち入りと聞いて、
別の事柄が出てくる人がいないという現実であれば・・・だ。
そこで、
デパートのバーゲン当日。
時間とともに開いたドアにワッと吸い込まれる人の波が、
赤穂浪士の討ち入りの時の、
吉良邸の門に吸い込まれる浪士たちの姿と重ねるのは、
討ち入りとは赤穂浪士としか反応出来ない現代だからだと思う。
デパートのセールでお気に入りを手に入れるには、
仇を追いかけるように突っ込んでいかなければならない。
結果、赤穂浪士は男だから義士になるが、
バーゲンは主婦たちだ・・・さて。
留守電の声色変えて冬日和
今年の冬は寒い!!
猛暑の後は厳寒だ。
この落差に体調を崩す人が多い。
冬のある日、気温が昼からグッと上がって、
思わず上着を脱がされるような日になると、
太陽の光に色気を感じて、
話す声も上ずってくる。
いつも愛想のない声で、
しかも最近しわがれてきた野太い声の、
「もしもし」っと答える留守電の声。
枯れてきたという自覚は必ずしもないにもかかわらず、
誰も近づきたくないような声を、
気温の上がった日には入れ替えてみたい!!
だからといって、
時々見かけるかわいい彼女の顔を思い浮かべて、
吹き込んだからといって、
愛想がいいと気持ち割るいの、
境目であることには結局変わりはない・・・。
果てしなき百円ショップの枯野かな
百円ショップと聞くと、
思わず顔がほころぶ習慣が出来てしまった。
これ以外は安い一杯飲み屋の名前を聞くときぐらい・・・。
百円ショップと聞くと、
思い切りよく買い物が出来るとイコールだ。
思い切りよく買い物などというのは、
百円ショップのない時代、
一年に一回あるかないかの確立でしかなかった。
春闘で大幅アップを勝ち取れば、
二回くらいは約束されただろうか・・・。
いまや百円ショップの出現により、
とりあえず買っておこうという贅沢が出来るようになった。
これは大きい!!
ものが溢れてくるからだ。
溢れたものはどうなる???
自然から自然を奪っていくという、
みんなで手をつないだ起爆剤になっていくということだ。
十二月八日ドーナッツ盤のヘイジュード
十二月八日は太平洋戦争勃発の日。
しかし、そんなことをまず最初に思い浮かべる人は、
もうかなり高齢な方であり少数派になってしまっている。
日本であればこの一事をもってこの日を語るべきだ!!
なんて言っている話もありますが、
ジョン・レノンの狙撃された日、
といっているマスコミのほうがはるかに多い。
平和ということを考えるのであれば、
両方並立がいいと思うのだが、
そんな状況は今までメディアの中ではお目にかかれない。
司会者が一言言う場合もあるが、
ほぼ何も出てこない・・・。
ヘイ・ジュードを聞きながら、
ジョン・レノンをしのぶ・・・。
実はこれが最高だというマスコミの宣伝がある。
擦り切れた音のドーナッツ盤のヘイジュードを流せば、
世の中完全に一色に染まってしまう・・・。
良いのか悪いのか・・・判断はしたくない。
ジョン・レノン世代の悩ましい状態だ・・・。
ロボットがヴァイオリンを弾く年の暮れ
ロボットといえば鉄腕アトム、
感情があり自分で考えて行動するロボット。
鉄人28号というのもあった。
こちらはリモコンで動くもう少し現実的なロボット。
21世紀にはこういうロボットが誕生するという話を、
子供のころは信じていた。
大人のなると、
ほとんど夢物語ということで解釈していた。
ところが2007年も暮れになって、
アシモ君が言葉を理解して、
行動するようになったというニュースが流れた。
そしてヴァイオリンを演奏して、
人の気持ちをしみじみさせた。
ついにロボットが人の気持ちを動かした瞬間だ。
自分がもうしばらく歳をとるころには、
ロボットの介護人がいて、
リクエストすると、
「アルハンブラの思い出」を演奏してくれるということが、
なんだか夢よりも若干身近に感じるようになった。
歳取るのは嫌だとしかなかった思いに、
それも面白いなという、
なんだか楽しみな感情が少し出てきた。
そんなの夢だと言うなかれ、
夢だから楽しくなるのだ!!
主催者吟
冬の虹残りもみじに吹き出され
名を呼びぬ声の憂いや寒椿
雪降りぬ列車も遠き夜のサティ
山の端を映す水面や冬灯
駅を背にオリオン見ゆる故郷かな
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